「変化しなければ生きていけないという危機感があった」─井上氏はこう話す。リースを祖業にしながら、銀行や保険、自動車、さらには水族館まで事業領域を広げてきたオリックス。それだけに「わかりにくい」という市場からの声を受けて今、事業部門への権限委譲を進めている。「金利が付く時代」も控える中、新しい会社の形をどう考えていくか─。
【あわせて読みたい】苦節8年、経営の混乱に終止符 東芝が上場廃止で再出発金融会社ではないオリックスに ─ オリックスはリースを祖業に様々な事業を手掛けてきたわけですが、創業から60年が経ち、規模も拡大しましたね。
井上 我々が成長できた理由は事業面でコアがなかったからです。リースに固執しなかったのがよかったのだと思います。
─ 変化対応を続けてきたということですね。
井上 変化しなければ生きていけないという危機感があったのです。1989年にオリエント・リースからオリックスに社名変更する時、宮内(義彦・当時社長、現シニア・チェアマン)は「リースの時代は終わった。社名からリースを外して違う名前にしたい」と言っていました。前年に阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)を買収した時でしたが、非常にいいタイミングでしたね。
社名変更当時はオリエント・リースに愛着のある社員も多かったので、新しい社名に戸惑う人間もいましたが、社名を変えて大正解だったと思いますね。
─ 事業領域が広く「オリックスって何の会社?」と聞かれることも多いようですね。
井上 ええ。そのことは株価にも影響していると思います。そこで今、各事業を見やすくしていますが、現実にはなかなか難しい。
例えば総合商社は、当社以上に複雑な事業領域で仕事をされていますが、市場からの評価は高い。それは以前、格付け機関などに事業内容をプレゼンテーションして、「総合商社」というカテゴリーを確立したからという話を聞いたことがあります。ですから幅広い事業を手掛けていても、誰もわかりづらいとは言いません。
一方、オリックスは未だに「リース会社」として括られていますから「リース会社なのに幅広い事業を手掛けていてわかりづらい」と見られてしまう。
また、金融機関特有の規制に影響されている面もあります。そして当社をカバーしているアナリストの9割以上が金融セクターのアナリストですから、どうしても「金融会社」として見られてしまうのです。
─ 時流や会社の実態に合っていないわけですね。トップとしてどう持っていきますか。
井上 私はCEO(最高経営責任者)に就任して10年になります。当初から格付機関や投資家に対して「我々はもう金融の会社ではありません」と説明し続けてきましたが、反応が薄かったのが現実でした。
一方で、社名のオリックスは浸透しており、何でもできる会社だと見てもらえているのは、非常に良いことだと思います。
現実に難しいのは理解しつつ、会社の仕組みとして一番理想的なのは、オリックスをホールディングカンパニーにして、個社を上場させる形です。例えばオリックス自動車が上場すると、日本最大のオペレーティングリース会社として、おそらく高い評価が見込めます。今はグループの中の一つの事業となっていることで価値がディスカウントされていると思います。
─ コングロマリット・ディスカウントがあるということですね。今後、現実にホールディングス化を志向していく?
井上 いえ、あくまでも理想として考えています。今は会社を分社化していませんが、実質的なカンパニー制になりつつあります。逆に分社化すると、各社にバックオフィス機能などを持たせる必要があるなど、かなりの費用も必要となるでしょう。そこで、今の会社の形態のままで、ホールディングスカンパニー的になっているのが最もいいのではないかと思います。実際、すでに権限その他は各事業部門に委譲しており、私のところに来るのは相当大きな案件しかありません。
─ 東芝の再建に向けて、2000億円を拠出していますね。改めてこの狙いについて聞かせて下さい。
井上 日本産業パートナーズ(JIP)の買収目的会社に1000億円出資、劣後債を1000億円拠出しています。
当社として、大きなカーブアウト案件を手掛ける可能性を探っていたところ、JIPの方々と「この会社をよくしよう」という方向性が合ったことが大きかったですね。
会社そのものは魅力があると思いますし、今後の事業再構築や、半導体市況の回復に期待したいと思います。