2024-03-25

ミライロ社長・垣内俊哉「障害者の就労拡大へ、企業、個人双方に課題がある中、意識ある企業は動き出している」

垣内俊哉・ミライロ社長

日本に965万人の障害者がいる中、働いているのは60万人という現状─。この理由について、ミライロ社長の垣内氏は「企業と障害者との間のミスマッチが大きい」と指摘する。だが、障害者など多様な人が履きやすい靴下を開発したナイガイ、雇用拡大に向けた情報発信を進める中西金属工業、障害者を整備士として雇用した京阪バスなど、共生社会の実現に向けた企業の取り組みは始まっている。その現状は─。


「ミライロID」のユーザーが30万人突破

 ─ 垣内さんは、障害者の方々の環境改善、バリアフリーの向上などに取り組んでいますが、今の状況は?

 垣内 以前から課題となっていた、障害者のウェブ上のバリアフリー「ウェブアクセシビリティ」の問題は、引き続き課題です。例えば、アクセシビリティが整備されていないことで、オンラインストアで決済ができないというような、障害者からの声も寄せられます。

 ─ 今やウェブ上での購買は主流になっていますから、大きな課題ですね。

 垣内 ええ。実は2023年12月に当社が運営するデジタル障害者手帳「ミライロID」のユーザー数が30万人を突破しました。そして24年1月9日には新たにオンラインショップ「ミライロストア」をオープンしています。

 ─ ミライロストアはどういう仕組みになっていますか。

 垣内 多くの企業が自社のECサイトを持っておられますが、このサイトのバリアフリーを完璧なものにしようと思うと、時間もお金もかかってしまいます。

 そこで、様々な事業会社のご協力の下、他のオンラインショップでは販売されていない、障害者を対象とした商品を流通させたり、ミライロストア限定の障害者割引を設けたりしています。これによって、障害者が求める商品をお届けできますし、企業としてはSDGs(持続可能な開発目標)にも寄与できるという形になっています。

 また、ミライロストアでは外食のロイヤルグループが展開するオンラインストア「ロイヤルデリ」の冷凍食品を提供する予定ですが、なぜこれが必要なのかというと、障害者は誰もがロイヤルホストなど、外に食事に行けるかというと、行けない人もいます。

 冷凍食品ならば、家でロイヤルホストのメニューを食べることができると。こういった形で、より多くの方々に自社の商品をお届けしたいという、我々の思いに共感いただける企業がミライロストアに出店したいということで集まって下さっています。

 ─ 参加したいという企業は増えているわけですね。

 垣内 そうです。これまではSDGsが謳っているように「誰1人取り残さない社会」と各社が言っていても、どうしてもホワイトウォッシュ(上辺だけ)になっていたケースも多かったのです。

 取り組みを本物にしていくために、ミライロストアに出店して、障害者からフィードバックをもらえれば、また新しい事業につなげていくことができると思います。

 例えばモノづくりの世界では、アパレルメーカーのナイガイが障害者など多様な人にとって履きやすい靴下「みんなのくつした」を開発し、販売しています。

 ─ この靴下にはどういう工夫があるんですか。

 垣内 例えば家族全員の物を一緒に洗濯すると、目が見えない方は、そもそも、どれが自分の靴下かわからないわけです。それが「みんなのくつした」は触ってわかるサイズ印をつま先に編み込んでおり、手でわかるようにするという配慮がされています。

 また、私自身もそうなのですが、車椅子にずっと座っているため、血流が悪くなって足がむくんできます。靴下の締め付けが足先に悪影響を及ぼすわけですが、「みんなのくつした」は締め付けを緩和しながらもずり落ちてこないという性能を実現しています。1足の値段は決して安くありませんが、障害者の方々にも評判になっており、売れています。

 このアパレル分野で、障害者にとって使いやすい製品をつくっていただいたというのは非常にいい例だと思います。ただ、いい製品をつくったとしても、課題はどう流通させて、その製品を望む人に届けるかです。この「みんなのくつした」は、自社のサイトに加え、ミライロストアでも販売しています。

 ─ かつて、誰もが使いやすい製品を打ち出す「ユニバーサルデザイン」が言われた時期がありましたが現状は?

 垣内 確かに2000年代の初頭、ユニバーサルデザインが流行しましたが、それ以降は下火になってしまいました。注目されたのはいいことですし、多くの企業が取り組みましたが、今となってはCSRレポートの片隅に掲載されるくらいの取り組みで終わっている。なぜかというと、製品が売れず、企業が儲からなかったからです。

 ─ なぜ売れなかったと考えていますか。

 垣内 第1に流通する場所がなかったこと、第2にきちんとしたマーケティングができておらず、フィードバックを受けられていなかったことです。

 このマーケティングの観点で言えば、「障害者に優しい商品」と謳っていても、どれだけの人に聞いたんですか? と聞くと

障害者5人、10人程度と回答されることが多いです。これでは、製品が売れるわけがありません。

 例えば、車椅子ユーザーにとって使いやすい製品をつくるのであれば、100人、1000人に聞かなければつくることができません。ただ、かつてと違い、意識を持った企業が動き出していますし、ミライロストアを活用すれば、今後適切なフィードバックを受けることができるようになります。

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