2024-04-01

「宇宙事業から宇宙産業へ変えていく」スペースワン・豊田正和の心意気

小型ロケット『カイロス』初号機(スペースポート紀伊周辺地域協議会の提供)



挑戦が無ければ成功も無い



 宇宙関連ビジネスは人工衛星の開発や打ち上げだけでなく、通信、衛星画像・位置情報サービスなど、これからの成長が期待される分野だ。

 宇宙関連ビジネスは、これまで官需を中心に発展。しかし、近年は技術開発のスピードを速めつつ、コストダウンを図ろうと、各国で民間のスタートアップ企業が台頭。米国や中国、インドなどの企業が登場し、国際競争は激しさを増している。

 日本のロケット開発は1955年、〝国産ロケットの父〟糸川英夫氏によるペンシルロケットの発射試験から始まった。そこから約70年、日本は大幅に世界の競争から遅れているのが現状で、豊田氏も「日本のロケット技術は優れたものと定評があるが、宇宙産業が発展しているとはなかなかいいがたい状況」と認める。

久保利英明の「わたしの一冊」『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』

 実際、現在はロケット打ち上げのおよそ半分が米国で、なかでも一人勝ち状態と言われているのが、起業家イーロン・マスク氏率いる米スペースX。同社は非上場だが、昨年末には同社の企業評価額が約25兆円規模と報じられて話題になった。

 経済産業省の調査によると、現在、ロケットや衛星などの製造による宇宙機器産業の国内市場規模は約3500億円。衛星通信・放送やデータの提供など宇宙利用産業は約7700億円。合計で約1.2兆円と言われる宇宙産業の規模を、政府は「宇宙基本計画」で、2030年代早期に倍増させるという目標を掲げている。

 全世界ではすでに宇宙産業で約40兆円の市場がある。2040年には1兆ドル(約150兆円)になるとの試算もあり、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスが広がっている。

「日本の宇宙事業は基本的に官主導で、なかなか民主導になっていなかった。カイロスが官主導から民主導に変わるきっかけとなり、宇宙産業を発展させる使い勝手の良いインフラになることができれば。民間主導の宇宙事業に変えていくことで、結果的にそれが宇宙事業から宇宙産業に変えていけるよう期待している」(豊田氏)

 世界の民間宇宙ビジネスでは、スペースXが先頭を走る。カイロスの挑戦を受け、イーロン・マスク氏は自身のX(旧ツイッター)で、「Rockets are hard(ロケットは難しい)」と投稿した。今では年間100回近くロケットを打ち上げているスペースXだが、マスク氏自身、当初は失敗の連続だったことを思い出したのかもしれない。

 13日の会見で「失敗という言葉は使わない。一つひとつの経験が新しい挑戦に向けての糧になる」と話した豊田氏。

 もちろん、挑戦が無ければ成功も無い。前向きに捉えれば、今回の失敗も、今後の成功につながる経験の一つ。スペースワンの挑戦は今後も続く。

【国産ロケット打ち上げ失敗】三菱総合研究所・小宮山理事長が語る「これからの日本の科学技術を担う人材づくり」

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