2024-06-20

【政界】懸案山積の中で会期末が迫る通常国会 なおも余裕を見せる岸田首相の「次の一手」

イラスト:山田紳



旗印はできるか

 6月に目玉政策の定額減税が始まり、岸田周辺は「物価高対策が国民に評価されれば、政権は苦境を挽回できる」という楽観論を捨てていない。岸田自身、このままじり貧になるより、景気回復と政治改革を掲げて勝負を賭ける選択肢をぎりぎりまで持ち続けるだろう。

 3補選と静岡の「4連敗」を考えれば、早期解散が自民に勝機をもたらす可能性は高いとは言えない。それでも普段から「何を考えているか分からない」と評される岸田だけに、昨年6月の国会終盤に起きた「解散騒動」が再現されるどうかは予断を許さない。

 自民党派閥の解散で権力構造が流動化し、有力な「ポスト岸田」候補も現れていない以上、解散せずに9月の総裁選を迎えたとしても、岸田に再選の芽は残る。窮地の岸田の表情にある種の余裕がうかがえるのは、まだ選択の余地があることを知っているからだ。

 いずれにせよ、「政治とカネ」の問題に一定の決着をつけない限り、岸田が衆院選か総裁選で政治改革の旗印を掲げることはできない。派閥解散、政治倫理審査会の開催に続き、焦点は終盤国会に向けた政治資金規正法の改正論議だ。

 自民党は公明党との協議が整わず、改正案を単独で国会に提出するという極めて異例の対応を余儀なくされた。ここで自公が対立したのは、①パーティー券の購入者を公開する基準を、通常の寄付と同じ「5万円」まで引き下げるか②政党から議員に支出され、議員が使途を公開する必要がない「政策活動費」の詳細を公開するか否か─の2つだった。

 ①は「10万円」から降りない自民と「5万円」の公明が互いに譲らず、②も「選挙活動費」のようにぼんやり開示する自民案に、詳細な公開を求める公明が難色を示した。両党幹部のパイプが細っており、妥協点を見いだす作業は難航した。公明には「問題を起こしたのは自民だ。うちが譲る必要はない」と不満もくすぶった。

 自民は参院の議席が過半数に届いておらず、改正案を単独で可決・成立させることができない。このため公明に対して、「国会の採決で自民案に反対すれば、連立が成り立たなくなる」と、どう喝めいたメッセージを送る場面もあった。

 しかし結局、自公双方にとって連立解消には現実味がない。党幹部ではらちがあかず、岸田自ら、「5万円」への引き下げという公明の主張を容れる再修正を決断した。


リーダーの王道

 一方で自民は日本維新の会にも秋波を送った。維新が最も重視するのは、国会議員に月額100万円支給され、使途公開の義務がない旧文通費(旧文書通信交通滞在費、今の呼称は調査研究広報滞在費)の改革である。

 岸田はまず4月下旬、旧文通費の使途公開や制限のあり方を改めて議論するよう、党内に指示した。さらに自民の国会対策委員長・浜田靖一が、衆参両院議長の下に協議体を作ろうと維新に誘いをかけた。

 自民批判の巻き添えを食うことを警戒する維新代表の馬場伸幸は「旧文通費を解決するから、規正法の自民案をやってくださいという取引」には応じないとクギを刺した。それでも、与党寄りの姿勢をしばしばやゆされてきた維新は揺れる。次期衆院選で「与党過半数割れ」がささやかれる中、公明に続く自民の連立相手と目され始めたからだ。

 馬場自身、「自民案は抜け道だらけだ。まともに議論する必要はない」と批判しつつも、将来的な連立の可能性は排除しない姿勢をにじませた。馬場と会談した岸田は、規正法案修正に関する維新の要求も最終的に受け入れた。公明・維新と手を握ることで「与野党合意による法改正」を演出するためだ。

 5月22日からは、まず衆院の特別委員会で各党が提出した改正案の審議が始まった。立憲と国民民主が共同提出した案を念頭に、自民は立憲に与野党協議を呼びかけた。参院に舞台が移った後も、6月23日の会期末まで流動的な局面が続く可能性がある。

 記録的な円安、物価高、子ども・子育て支援法の改正、国際情勢の緊張など、本来、今国会における重要課題は「政治とカネ」のみにとどまらない。

 岸田は国のリーダーとして、政局に過度にのめり込むことなく、地道な政策構想と実行に汗をかき、国民の信頼回復を目指す「王道」を歩むべきだ。

(敬称略)

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