社会的意義を感じて2017年に起業
─ ところで、山本さんは京都大学大学院を卒業後、NTTドコモに入社しますね。どんな仕事をしていましたか。
山本 サービス開発、技術開発の両面に携わっていました。今でこそ、シムチップのようなものが様々な機器に入ってコントロールするのが当たり前の時代になっていますが、その走りのようなサービスの開発が最初の仕事でした。
─ その後、1社を経て07年にオンライン旅行会社のエクスペディアに転じましたね。
山本 06年にオーバーチュア(現LINEヤフー)という検索連動型広告の会社を経て、エクスペディアに入社し、日本語サービスの立ち上げ、プロダクトの責任者を務めました。
08年に当時はエクスペディアのグループだったトリップアドバイザーの日本サービス立ち上げに携わった後、楽天(現楽天グループ)に入社し、楽天トラベルの社長に就きました。
─ 楽天トラベルでのご自身の経営者としての仕事として印象に残るものは?
山本 自分の中ではトライできたこと、できなかったことも含めて、本当に勉強になりました。トリップアドバイザーの時は、技術的に優れたサービスをつくるという要素が大きかったですが、楽天トラベルは組織としてはより大きい会社でしたから、組織としてどう戦うか、チームの力をどう生かすかを常に考えていました。
楽天トラベルは、順調に業績が伸びていましたから、そのうまくいっている会社を、さらによくしていくために採用いただいた形でした。
楽天には三木谷浩史さんだけでなく、それぞれのビジネスの規模が大きく、各社にユニークで優秀な経営者がいました。そうした方々から、チームマネジメントの考え方、消費者に届くメッセージの伝え方などを学ばせていただきました。本当にいい経験ができましたね。
─ 17年にCocoliveを創業したわけですが、この動機は何でしたか。
山本 事業の社会的インパクトが大きいのではないかと感じたのが一番の動機です。その時に感じた内容はほぼ「KASIKA」の中に盛り込んでいます。
これは楽天トラベルでの経験が大きく影響しています。楽天トラベルはホテルを予約するサービスですが、三木谷さんから影響を受けていたのは予約できることはコモディティだということです。単に予約ができるだけでなく、お客様が出会ったことがないホテルや旅館に出会う、マッチングの要素が重要だということでした。
利用者の口コミや行動データなど履歴を分析し、リコメンデーションやパーソナライズをすることで、楽天トラベルで選ぶと単に安いだけでなく、いいホテル、旅館に泊まれるという体験を提供できる。
─ 出会いや発見を提供することが大事だと。
山本 ええ。また当時、民泊サービスのAirbnb(エアービーアンドビー)がアメリカで流行していました。居住用につくった住宅を、宿泊用に使うというサービスで利益を出していたのです。
部屋は長い期間住めば賃貸や購入、短い期間であれば旅行と言われる。いずれにせよ、部屋を探しているという点では同じです。住宅探しもホテルの部屋探しも本質的なものは変わらないのではないかと思ったのです。
例えば私が住宅を買った際の経験なども、私用に提案を受けていたかというとそうではありません。とにかく、今ある物件全てから探す中で、私が探しているポイントが絞られているのにもかかわらず、必ず最初の検索条件が提案されているような状態でした。
その時に、住宅、不動産業界はまだ、1人ひとりの顧客に合わせるという形では、テクロノジーを使いこなせていないのではないかと感じました。営業担当者の力が強いがゆえに、彼らに全て背負わせてしまっている面があるのではないかと。
─ まだまだニーズを掘り起こせる余地があると考えたわけですね。
山本 そうです。そして、自分が考えていることがビジネスになった時に、社会的インパクトがあるのではないかと考えました。私自身、旅行が好きで、新たな旅を発見するのが好きでした。それを住宅で実現したいと考えたのです。
旅行は1週間楽しく過ごせば幸せになりますが住宅、不動産の賃貸、購入が成功すれば数年から数十年の幸せが得られる。この家を買ってよかった、建ててよかったと思えるものの出会いをお手伝いできれば、社会にインパクトを与えられると考えました。
─ 事業を通じて社会に貢献できるということですね。
山本 起業当初は、そこまで大きく考えていたというよりは、パブリックの一部、人の住まい探しに少しでも貢献できればという思いでした。
実際には、最後は「人」が出ていくサービスですから、その「人」が一番いい提案をできるための情報提供と分析のツールを住宅、不動産会社さんに提供することで価値を出せるのではないかと思ったのです。
住宅、不動産会社さん側に立って、彼らがよりよい提案を出す、ご自身のいい面を提供しやすい、営業の方々が顧客とのコミュニケーションに十分時間を取ってもらうためのサポートを、今後も進めていきます。