2024-07-09

古川弘成・阪和興業相談役 × 中川洋一・阪和興業社長「お客様のために汗をかき、足で稼ぐ。そして人を育てる。このDNAをこれからも引き継いでいく」

左から、古川弘成・和興業相談役、中川洋一・阪和興業社長




インドネシア事業が経営の柱に成長

 ─ 国内は基盤強化で、成長を海外に求めたわけですか。

 古川 そうです。国内市場は縮小する見通しの上で、その分、海外で伸びようと。当時、東南アジアにおいては、各商社が主に日系メーカー向けに加工事業を行っていました。そこで我々はより地場・地域のユーザーに食い込むために製造業、メーカーの顔も持たなければいけないと考えました。

 国内では戦前からの流れで鉄鋼などは指定商社制が残っています。しかし海外には、そのような仕組みはなく、ユーザーはメーカーから直に商品を買えます。その市場で戦うためには自らメーカーにならなければいけないと。そうしなければ、阪和興業の存在価値を認めてもらえないという危機感がありました。

 そこで14年にインドネシア・スラウェシ島で中国の民間企業である青山実業集団が主導していたニッケル銑鉄、ステンレス精錬・圧延事業への一部出資、参画を決めました。

 中川 青山実業は現在、世界一のステンレスメーカーとなっています。スラウェシ島でニッケルが採れるということで、鉱山開発から工場や港も建設するという形で一貫事業にすることで圧倒的な競争力を持った事業になりました。やはり原材料を押さえることが非常に重要だということです。

 青山実業はインドネシアだけで400万トン以上のステンレスを生産しています。日本メーカーの生産量を全て合計したものよりも多い。我々はこの事業に出資をし、商社機能を生かして原料調達から製品販売まで関わっています。

 ─ 日本は中国との関係をどうしていくかが課題ですが、現在は経済がつないでいる形ですね。

 古川 青山実業は民間企業ですし、インドネシアでの事業ですから直接的な影響は少ないですが、青山実業自身もそのあたりは考えながら事業展開をしています。

 中川 青山実業と一緒にステンレス事業を手掛けていたことで、同社が提携している中国の鉄鋼メーカー・徳龍鋼鉄のインドネシア子会社である高炉一貫メーカー・徳信鋼鉄の事業にも参画できました。

 ─ 青山実業との関係が生きた形ですね。

 中川 この事業はそれだけにとどまりません。この地で採れるニッケル鉱石はコバルトの含有量が予想以上に多いことがわかりました。このニッケル、コバルトは電気自動車(EV)の電池製造における正極材に使われるということで、その精錬事業に当社も出資しています。

 この「QMBニューエナジーマテリアルズ」は、青山実業の他、中国最大のリサイクル企業であるGEM、世界最大の車載用2次電池(蓄電可能な電池)メーカーである中国のCATL、韓国の正極材メーカーであるエコプロと共同で手掛けています。

 ─ 引き潮満ち潮はありますが、世界の大きな流れはEV化に向かっており、重要な事業になりますね。

 中川 そう思っています。アメリカはIRA(インフレ抑制法、過度なインフレを抑制すると同時にエネルギー安全保障と気候変動対策を進めるための法律)があり、中国企業にとっては微妙な状況になっているというのが現状です。

 ただ、欧州向け、日本向けに関しては今、インドネシアがEV関連事業の一大拠点となっており、中国系を中心に様々な企業が進出を進めています。

 やはりニッケル鉱山の存在は大きい。ニッケルの用途は大きく分けるとステンレスと電池ですが、圧倒的にステンレスの需要が多いんです。品位が低いニッケルはステンレス、高いものは電池材料に使用されます。

 この品位の高いニッケルはこれまではロシアを中心に採掘されていました。それを青山実業が4年ほど前に、品位の低いニッケルから、正極材の材料にも使える品位のニッケルマットを製造する技術を開発したのです。これによってインドネシアは、正極材原料の一大拠点となりました。

 青山実業は、ステンレスと電池の需要を見ながら、同じラインで生産調整できることも競争力の源泉となっています。

 古川 当社はインドネシアでメーカーとしての顔も持つことになりましたから、アジアの様々な鉄鋼メーカーからのコンタクトが増え、ビジネスも順調に伸びています。インドネシアの現地法人では250人ほどのグループ社員が働いています。

 ─ インドネシアの事業は大きな柱に成長しているということですね。アメリカやインドといった鉄鋼市場が大きい国での展開をどう考えますか。

 中川 アメリカ、インドは人口が増えており、鉄鋼需要の増加も見込まれています。そして中国勢が出ていかない市場であることも大きいですね。中国勢が進出するとコモディティ化して、価格競争力で市場を制圧されてしまいますが、両市場はそういう状況にはありません。

 ただ、残念ながら当社はアメリカには出遅れている感があります。昔から総合商社が手掛けている市場であることも要因です。インドに関しては様々なトライをしていますが、ビジネス慣習も含め奥が深い。現在は事務所を3カ所置いて、輸出基地として活用しています。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事