2024-08-08

旭化成社長・工藤幸四郎「我々が進むべき道、やるべきことが極めてクリアになった今、変革していく絶好のチャンス」

工藤幸四郎・旭化成社長




強みを持つ湿式セパレーター、北米で大型投資を決断

 ─ 創立の時から旭化成は強さを伸ばし、変えるべきものは変えてきたと。直近も、電気自動車(EV)の電池の主要材料となるセパレーターで大型投資を決めていますね。

 工藤 自分達の技術を生かして、ニッチな事業領域の中で収益性を高めていくのは旭化成のDNAに近いと思っています。

 今回、以前から注力してきた湿式セパレーターに関し、カナダで約1800億円の投資を決定しました。

 我々は電池、セパレーターについては先駆的に取り組んできましたし、ファーストランナーでした。PCやスマートフォンなど民生から需要が高まり、今は車載用の需要が爆発的な形で増えてきています。

 ただ、我々も含め、日本メーカーにありがちなのが「逐次増設」です。半導体の世界が今、そうなっていますが、需要が伸びることを見越して、一気に投資をして「待ち伏せ」し、世界で勝つというように、戦略的に行動できていないのが現状です。

 ─ その理由は何だと考えていますか。

 工藤 先程申し上げたように多角化経営で、1つのカゴに全ての卵を入れない形だからです。ニッチで育っている時はそれでいいのですが、需要が爆発する時に、1000億円を超えるような投資をして勝負を賭けるような覚悟は決めていないし、なかなかできていないのです。

 ですからIPO(新規株式公開)で資金を集め、国の補助金を大量に得た韓国勢や中国勢に車載用途では抜かれていきました。

 我々は日本企業にありがちな形で後れを取りましたが、需要が今後も伸びることは間違いありませんし、日本に製造設備も持っていますから、ここで諦めるわけにはいきません。

 ─ そこが、今までのやり方の反省点だし、それがカナダへの投資の動機になったと。

 工藤 そうです。まず需要が増える地域として北米マーケットに注目しました。湿式セパレーターで進出している企業はありませんでしたし、国から補助金が出ることもわかりました。

 我々自身の技術やお客様との擦り合わせ技術も進化していますし、自動車メーカー、電池メーカーからも「ぜひ北米でやって欲しい」というご要望を多くいただきました。

 今回の投資では日本政策投資銀行からも出資していただき、ホンダさんと合弁会社の設立を検討するという形で、リスクをミニマイズし、かつ北米に打って出ることができました。過去の反省を生かして、新しい形で旭化成の中で事業を成長させる、ニッチ戦略から〝卒業〟した形のエポックメイキングな投資です。

 ─ 世界のセパレーター市場でリーダーシップを握る可能性があるということですね。

 工藤 そう思っています。今後、電池も変わっていきます。今のリチウムイオン電池が完成形ではなく、耐久性やEVの航続距離を長くするために進化していく。その進化するリチウムイオン電池に対して、セパレーターとしてどういう技術を投入するかという観点では、旭化成は世界で一番だと思います。

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