2024-07-30

【政界】退陣不可避論が広まる岸田政権 求められる政策重視の自民党総裁選

イラスト:山田紳



異例ずくめの総裁選

 一方、ポスト岸田の面々で大きな流れを作り出す人物は依然、見当たらない。「自分が首相になればどうするかを常に考えていなければならない」と語る石破は今回出馬すれば5回目の挑戦で、敗れれば政治生命が終わる可能性がある。世論調査では人気が高いが、党内での人気は低迷。粉骨砕身支える議員が見当たらない。

 茂木は「首相になりたいとは思わないが、首相になってやりたいことはある」と意欲を隠し切れない様子だ。「夏の間考えたい」と態度を明らかにせず、不出馬にも含みを残すが、自民党の一連の不祥事は、岸田を支えなかった幹事長の茂木の責任との声も根強い。麻生と良好な関係を築いてはいるが、麻生派幹部は「会長(麻生)が茂木を総裁選で推すという話にはなっていない」と明かす。

 3年前の前回総裁選に立候補し、岸田に敗れた河野も出馬を模索する。すでに所属する麻生派会長の麻生にも意欲を伝達した。ただ、後ろ盾だった菅は、麻生派を離脱しない河野と距離を置く。石破同様、淡泊な性格の河野の党内人気は低いままだ。

 経済安全保障担当相の高市早苗は、岸田内閣の閣僚である間は出馬を表明しにくい環境にあるが、立候補は既定路線だ。とはいえ、党内で支持の広がりを欠く。昨年秋に勉強会を立ち上げたものの、総裁選立候補の推薦人に必要な20人を大きく上回る状況にはない。前回総裁選で後ろ盾となった安倍はもういない。安倍の三回忌命日の7月8日に新著を出版した高市に、保守派の砦として期待する向きもあるが、「なんでも一人でやろうとして他人に仕事を任せられない性格」があだになっている。

 岸田が総裁選に出馬し、閣僚・党幹部の茂木、河野、高市もそのまま総裁選に出馬すれば、1978年の総裁選以来、46年ぶりに現職と党幹部らが争う異例事態となる。78年の総裁選は、当時首相だった福田赳夫に対し、幹事長の大平正芳、総務会長の中曽根康弘、通産相の河本敏夫が挑み、大平が福田を破った。現職首相の敗北は、後にも先にもこのときの福田しかいない。

 菅の本命とされる小泉は父の元首相・純一郎から「50歳までは総裁選に出るな」と言われている。小泉は43歳で、首相に就けば戦前も含め、歴代最年少となる。これまで挙げた岸田らが全員60代であることを踏まえると、小泉が勝てば自民党全体の刷新をアピールできる。小泉は最近、「今こそ憲法改正を実現したい」と周囲に語っており、総裁選出馬に含みを残す。「父離れ」ができるか否かを慎重に見定めている状態だ。

 もう一人、総裁候補に急浮上している40代が前経済安保担当相の小林鷹之だ。11月に50歳になる小林は衆院当選4回で、世間の知名度も低いが、自民党内では以前から「若手のホープ」との期待が高い。

 開成高校、東大、財務省とエリート街道を歩みつつ、腰が低く、憲法改正や経済安保法制の必要性を訴えてきた。官僚だった2009年に誕生した民主党政権を見て危機感を募らせ、当時野党で不人気だった自民党から出馬するために官僚を辞めるという骨の太い一面も持つ。若手の代表格として一気に本命となる可能性がある。

 40代の小泉と小林が競えば、今までにない総裁選の構図となり、自民党再生の印象を強く打ち出すことになるだろう。

 菅と対立するもう一人のキングメーカー・麻生の動向も注目される。裏金事件で派閥解散が相次ぐ中、存続しているのは麻生派しかない。55人が所属し、総裁選で唯一、まとまった票が計算できる環境にある。

 だが、事はそう簡単ではない。先述の通り麻生派には河野がいるが、麻生が全面的に支援する気配はない。麻生派ベテランに、派閥議員の面倒を見ようとしない河野への嫌悪が根強く、仮に河野が出馬に踏み切れば、派内で対応が分かれることは必至だ。岸田と疎遠になったとされる麻生は岸田の首相としての実績は評価しており、最終的に支持する可能性もある。


政策変更の可能性

 9月に向け報道は政局一色になりそうだが、日本が置かれた環境はその猶予を与えるほど穏やかではない。英国では保守党が総選挙で惨敗し、労働党に政権交代した。フランスでも下院選挙で与党が苦戦。11月の米大統領選では前大統領のトランプの復活に現実味がある。

 岸田が総裁選に再選して続投すれば、情勢によっては先進7カ国(G7)の中でカナダ首相のトルドーに続き、2番目の古株になる可能性がある。一方、岸田が交代すれば、同じ自民党とはいえ、すでに表明した低所得者向けの給付金やエネルギー補助金、さらに長期的な少子化対策、財政再建、防衛費増額などの重要政策で変更が行われる余地がある。何よりも自民党が新総裁で一致結束しなければ、毎年のように首相が交代して日本の政治が漂流することも否定できず、その意味でも重要な総裁選となる。(敬称略)

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