2021-06-25

元防衛大臣・森本敏「急を要する危機管理体制の構築。政治家に求められるのは全体観」

森本敏・元防衛大臣



尖閣諸島と台湾との関係


 ─ 日本の政治は今、大きな決断を迫られているとことですね。憲法改正とも絡んでくるでしょうし、総合的な判断が求められます。

 森本 日本の防衛を考える上で、台湾海峡は深刻な問題です。日本では尖閣諸島が議論になることが多いですが防衛上、それだけではすみません。

 中国は尖閣に上陸するふりをして日米の防衛力を尖閣に拘置して、台湾海峡への日米の防衛力による守りを薄くして台湾攻略を考えるでしょう。

 あるいは、その際、北朝鮮に指示して日本海に弾道ミサイルを撃ち込んで、日本のイージス艦を日本海にひきつけることを考えるかもしれません。南西方面の防衛は薄くなります。ですから尖閣と台湾は密接にリンクしています。

 今や、こうした現実的問題を真剣に考えなければいけません。日本は米国の国家防衛戦略(NDS)やグローバルな態勢見直し(GPR)の結果を見つつ、国家安全保障戦略や防衛大綱の見直しを来春にかけて行う必要があります。勿論、最近になって取り組んでいる経済安全保障の問題も重要な課題になります。

 ─ 日本の政治を見ても、東京五輪が開催できるかどうか、あるいは今秋にも解散総選挙が行われるのではないかということで微妙な情勢です。

 森本 東京五輪が開催されたとして、9月5日にパラリンピックが閉幕した後に解散総選挙という流れになり、その後、特別国会で首班が指名されて、自民党総裁選挙が行われた後、新総裁が組閣をして10月に臨時国会が召集されることになるのでしょうか。まだ、わかりません。

 その後、12月までの1カ月半くらいの間に、日米間でいろいろなことをやらなければなりません。「ホストネーションサポート」(駐留米軍の支援協力体制)の交渉、経済安全保障を含む「国家安全保障戦略」見直し作業もあります。それまでに米国はバイデン政権としての各戦略を見直しますので、それをうけて年末には日米「2プラス2」を行って政策調整を行うことになると思います。

 いずれにしても、国家安全保障戦略の見直しは最も重要です。できれば、それに基づいて国家防衛戦略と経済安全保障戦略を策定するのが正しいやり方と思います。

政治日程を睨みながらも…


 ─ 危機管理体制の構築がなされていないということは、足元のコロナ禍への対応など、全てにつながりますね。

 森本 例えば緊急事態宣言も、国のありようを考えた上で打ち出してくれればよかったのですが、今まではパッチワーク的作業です。

 それというのも、先ほど申し上げたように政治家の方々は解散総選挙を睨んでいますし、東京都議会議員選挙もある。どうすれば選挙に有利になるかを考えますから、国をどうしていかなければならないか、ということとは別の基準で物事を考えがちになってしまう。

 ─ 世論の意見を聞くだけでなく、自分たちで世論を形成し、世の中を牽引していく。あるいは糾弾されても前に進むような覚悟が政治家には求められますね。

 森本 そう思います。世論に従うならば世論計算機のようなものがあればよく、官邸も議会も必要ありません。国の利益を考え、将来を展望し、今は理解されないかもしれないが、いずれ、国家・国民にとって重要になる政策をきちんと覚悟を持って対応してくれる政治家が求められますが、そうなっているのでしょうか。

 国家と国際社会全体を見て、物事を考えていく政治の全体観が安全保障、あるいはコロナ対応においても求められるのだと思います。

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