2021-07-09

【東芝問題】の教訓 問われる経営者の覚悟

綱川智・東芝社長



アクティビストを含む株主との対話をどう考えるか?



 不正会計問題や米原発会社の買収に関わる巨額損失で経営破綻の瀬戸際に追い込まれた東芝の再建は「原発やエネルギー、半導体など国策に重要なビジネスを手掛ける」(官邸筋)との理由から、事実上、経産省との二人三脚で進められてきた。

 過度な官の介入や癒着はいけないが、国の安全保障上大事な企業が官と連携を取るのは当然ともいえる。日本の産業政策を作る上で、官と民の関係はどう考えていけばいいのか。

 コーポレートガバナンス(企業統治)問題に詳しい弁護士の久保利英明氏は、「城山三郎の『官僚たちの夏』で描かれた1960年代と経済がグローバル化した今では時代が違う。企業は外国人を雇うことができるが、経産省は外国人を雇うことはできない。もはや、世界中の英知を集めることができるのは経産省ではなく民間企業。グローバルな産業政策を国が作れる時代でもないだろう」と指摘する。

 東芝は上場を維持するため、債務超過を免れようと、2017年に第三者割当増資を実施した。アクティビストを含む多くの海外ファンドから出資を受けたという経緯があるが、「必ずしも株主との対話が円滑といえなかった」(市場関係者)という。

 株主との対話は大事だが、短期的な利益を要求するとされるアクティビストの意見ばかりを聞いていれば、会社が混乱するのも当然である。しかし、久保利氏は東芝が自らアクティビストの意見を聞かざるを得ない状況に追い込んだと指摘する。

「株価を上げ、業績を上げ、企業価値を向上してほしいと思うのは、アクティビストも一般の株主も同じであり当然のこと。経営陣は情報開示を徹底的に行い、自分たちはこういう会社にしたいということを公開して、経営の透明性を高めるべきだが、東芝も、経産省も、皆が皆、隠しに隠して誰も説明しない。これは異様だし、経営方針を説明できない人をリーダーと呼ぶことはできない。東芝は自業自得だ」(久保利氏)

 いずれにせよ、今後、経産省という後ろ盾を失った東芝の経営が泥沼化するのは必至。前回の在任時にアクティビストに対して「物言えぬ社長」と言われた綱川氏も、難しいかじ取りを迫られそうだ。

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