2020-12-16

日本初の「環境株主提案」を実行、環境アクティビスト・気候ネットワーク首脳に直撃!

世界で「ESG投資」の潮流が強まっている。コロナ禍にあっても、この分野への資金流入は旺盛。その流れを受け、2020年6月に行われた、みずほフィナンシャルグループの株主総会では、日本で初めて環境関連の株主提案が行われた。提案したのは環境NPO・気候ネットワーク。「日本企業の環境への取り組みは十分ではない」と理事の平田氏。単に反対するのではなく、対話で企業に迫る「環境アクティビスト」を直撃した。(2020年10月7日号掲載)

みずほFG株主総会「34・5%」賛成の意味


 2020年6月25日、東京・丸の内の東京国際フォーラムで、みずほフィナンシャルグループの第18期定時株主総会が行われた。出席者は417名。

 総会では5つの株主提案が出されたが、いずれも否決。ただ、注目されていたのは第5号議案。その内容は「定款一部変更の件(パリ協定の目標に沿った投資のための経営戦略を記載した計画の開示)」。

 みずほFGが地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同していることから、パリ協定の目標に沿った経営戦略を記載した計画を年次報告書で開示する、という条項を定款に規定することを求めた株主提案。「環境」に関連した株主提案は日本初。

 提案には大手議決権行使助言会社・グラスルイス、ISSも推奨を表明した他、一部の海外機関投資家が賛同。結果、否決されたものの34・5%と、3分の1を超える賛成比率となった。

 株主提案を行ったのは、京都に本拠を置くNPO法人・気候ネットワーク。今回の結果をどう受け止めているのか。

「ESGの国際潮流はあるが、国内では前例がなく、結果は想像がつかなかった。蓋を開けてみたら34・5%と、否決はされたが高い水準の賛成をいただいた。国内でもパリ協定に整合させることが企業経営にとって必要だという認識が広がっていることを証明したと思う。大きなインパクトがあったのではないか」と話すのは、気候ネットワーク理事の平田仁子(きみこ)氏。

 みずほFGはこの提案に反対を表明。気候変動問題を重要な経営課題として議論してきたこと、環境に関する情報開示は「環境方針」で明文化し、年次報告書でも報告していることから、そのことを「定款に規定する」ことは適切ではないという立場。

 また、気候ネットワークが主張する内容そのものに反対しているわけではなく、この事項を定款で規定することは株主の「マイクロマネジメント」にあたり、経営の機動性と柔軟な裁量を制約する懸念があるという見解を示した。

 一方、平田氏は定款の一部変更を提案した理由について「日本では会社法で、会社の方針を決めるのは取締役会であり、株主総会ではないと整理されている。例えば総会に『石炭火力発電への融資を止めるように』という提案を出しても取扱い事項ではなく、そもそも議題に挙がらない」と説明する。

 そこで相談をした弁護士から、日本で株主提案として受け取られるのは役員の選任と、定款の一部変更だというアドバイスをもらった。「形式よりも、みずほFGのポリシーが変わっていくことの方が重要。この方法を取らざるを得なかった」と話す。

 気候ネットワークが、みずほFGの株主になってまで提案をした理由は「検討段階で、みずほFGの石炭火力への融資が最大であるというレポートが出ていたことと、3メガバンクのスタンスを比較した結果。決して、他の2メガが大丈夫だという意味ではない」と平田氏。

 ただ、「レポート」にはみずほFGからの反論もある。根拠となっているレポートはドイツのNGO、ウルゲバルト等が発刊したもの。この中のデータが限られた公開情報を基にしていたり、石炭火力に関係のない運転資金が含まれていたり、「貸出金額」ではなく「融資枠」が使用され、それと融資が重複して掲載されており、その金額の正確性・適切性に問題があると指摘している。

石炭火力向け融資「残高ゼロ」を表明


 株主総会に先立つ20年4月15日、みずほFGは「サステナビリティへの取り組み強化について」を発表。その中では、石炭火力発電所向けの与信残高について、2030年度までに19年度末の約3000億円を50%削減、2050年度までに残高ゼロとする方針を示した。

 関係者から驚きをもって迎えられたのは「石炭火力の新設を資金使途とする投融資を行わない」という対応の厳格化。そしてその時点で他の2メガは残高ゼロまで踏み込んでいなかった。

「残高ゼロを実現するということは、新規で投融資を行わないということの裏返し」と話すのは、みずほフィナンシャルグループ戦略企画部金融調査チーム次長・サステナビリティ推進室室長の森西徹氏。

 みずほFGでは、15年の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されて以降、それ以前からの取り組みをさらに強化。元々、コーポレート・コミュニケーション部の中にあったCSR推進室を戦略企画部に移し、18年に「サステナビリティ推進室」に衣替えした。

 それ以降、「戦略、業務企画と一体で取り組んできた」(森西氏)。19年度から5年間を計画期間とする経営計画の中にも気候変動への取り組みが組み込まれている。

 前述の「サステナビリティへの取り組み強化について」は1年間、当局、経営陣、社外取締役を含め議論を続けた結果、公表に至ったもの。

 これに対して気候ネットワークは、「私達の株主提案以前から準備されてきたものもあると思うが、私達の活動も一定の後押し材料にはなったのでは。みずほFGさんと直接対話する中でも、私達の提案も考慮して進めてきたというお話もお聞きしている」(平田氏)。

 みずほFGとしては、株主総会前に、強化された方針を示し、気候ネットワークに株主提案を取り下げてもらいたいという思いもあったのかもしれない。

 だが、平田氏らは「みずほFGの取り組み強化は大きな前進だったかもしれないが、そこで満足してはいけない、まだパリ協定に整合しているとは言えないということで、株主提案をさせていただいた」という。

 その方針表明にもかかわらず、株主提案がなされ、34・5%の賛成票が株主から投じられたことを、みずほFGとしてどう受け止めているのか。

「無視できない数字だと考えているが、逆に7割近い株主さんは我々の取り組みを評価されている。取り組みはこれで終わりではない。毎年、気候変動への取り組みを進め、継続的に開示していく必要がある」(森西氏)

 今後も環境に関する取り組み、対話は続いていく。

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