2022-04-11

【政界】ウクライナ問題が内政・外交を直撃 追加経済対策で打開図る岸田政権

イラスト・山田紳



不仲説打ち消すはずが

「3党幹事長で何かを決める前には情報を共有することになっていたが、現時点で私には連絡はない」。この日の記者会見で合意に関する所見を問われた自民党政調会長の高市早苗はそう明言した。蚊帳の外に置かれたことを自ら認めたのは、よほど腹に据えかねたからだろう。

 岸田政権発足以来、幹事長の茂木敏充と高市は何かと折り合いが悪い。昨年、18歳以下を対象にした10万円相当の給付を決めた際は、岸田の指示で自民、公明両党の幹事長が内容を協議した。ところが、自治体や世論の評判が悪く、給付方法をなし崩し的に変更するはめに。政調会長なのに関与させてもらえなかった高市は不満を募らせていた。

 茂木は閣僚経験が豊富で、政調会長を務めたこともある。政策立案能力の高さは党内の多くが認めるところだ。一方、岸田が高市を党三役に就けたのは、昨年の総裁選で高市を支援した元首相の安倍晋三への配慮だとされる。いきおい、岸田は政策論が異なる高市ではなく茂木を重用しがちになる。今や非主流派の二階派幹部は「高市は完全に外されている」と解説した。

 幹事長と政調会長の不協和音が顕在化したら自民党にとってはマイナスだ。党内第2派閥の茂木派を率い、ゆくゆくは総理・総裁の座を狙う茂木は、トリガー条項とは別の政策で高市の懐柔に乗り出す。

 3月15日、自民、公明両党の幹事長と政調会長が首相官邸に岸田を訪ねた。携えた文書には「年金生活者等に対する『臨時特別給付金』(仮称)について速やかに検討を行うことを求める」と書かれていた。

 新型コロナの影響による現役世代の賃金低下に対し、岸田政権は「賃上げ促進税制」を活用するとともに、経済界や連合に春闘での賃上げを促してきた。それだけでは年金受給者には恩恵が及びにくいとして、与党が急きょ提案したのが臨時特別給付金だった。

 厚生労働省は1月、2022年度の公的年金の支給額を前年度より0・4%引き下げると発表した。年金額は毎年度、物価と賃金の変動率に応じて見直すのがルール。現役世代の賃金が下がったため、年金額も2年連続で引き下げた。

 国民年金の支給額は満額で前年度比259円減の月6万4816円、厚生年金はモデル世帯で同903円減の月21万9593円。4、5月分は6月に支給される。つまり、受給者は参院選の直前に減額を実感することになり、岸田政権にとっては都合が悪い。年金問題は選挙への影響が大きく、安倍政権も16年参院選の前に、低年金の高齢者に目玉政策として3万円の臨時福祉給付金を配った経緯がある。

 茂木らが用意した文書には具体的な金額は明記されていなかったが、与党側は1回限りで5000円程度を支給すると岸田に説明した。岸田も「重要な申し入れなので政府としてしっかり対応したい」と前向きに応じた。会談後、茂木は「緊急ということもあり、幹事長、政調会長レベルでやらせてもらった」と記者団に連携をアピールした。

 ところが、この件が報じられると、インターネットなどで「高齢者ばかり優遇して不公平だ」などと批判が噴出。「年金受給者」は一時、ツイッターのトレンド1位になるほどだった。公明党政調会長の竹内譲は記者会見で「コロナ禍の長期化やウクライナ情勢等を総合的に勘案して給付を検討した。決してバラマキとの批判は当たらない」と釈明に追われた。しかし、共同通信の3月19、20両日の全国電話世論調査によると、5000円支給を「適切だとは思わない」は66%に上った。

以下、本誌にて

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事