日本製紙としても「異なる業界の大手が開発連携することで、環境対応の製品を社会に幅広く供給できると考えている」(日本製紙関係者)と期待する。
三井化学は、現在会長を務める淡輪敏氏の社長時代から日本製紙と連携している。直近では環境配慮型包装材に共同で取り組んでいる他、次世代素材と呼ばれる「セルロースナノファイバー」の活用でも連携。
ただ、今回のバイオコンポジット開発においては、ナノファイバーよりも粒子が大きいマイクロファイバーで「十分な性能が出てきた」ため、コスト面など実現可能性の観点から採用。
現在、セルロースマイクロファイバーを50%超、あるいはそれ以上含有したバイオコンポジットを開発中だが、簡単な形のものは問題なく成形できても、自動車のインパネのように、細かい形状を含む大面積のものを成形する際には課題が多い。
ここは三井化学が持つ、異種の素材を混ぜ合わせる「相溶加材」の技術や、日本製紙の原材料改質などで乗り越える考え。
近年、企業、個人からのバイオマス素材を活用した製品へのニーズは高まり続けている。個人でいえば、三井化学が22年4月に全国の20代から60代400人を対象に実施したアンケートでは、環境意識の高い層でバイオマスプラスチックの選択意向が7割を超える結果となった。
企業からも、セルロースを50%超含有したバイオマスコンポジットへの要望が高まる。前述の通り、含有率が50%を超えると分類が「プラ」ではなく「紙」に変わり、「可燃物」として処理することが可能になる。いわば牛乳パックと同じ扱いにできるということ。
三井化学はグループで提供している製品・サービスが、環境や社会にどれだけ貢献しているかを見える化するために環境貢献価値「Blue Value®」、QOL(生活の質)向上への貢献価値「Rose Value®」を指標に置く。
これらの指標を満たさないと投資がしづらいというほど、環境や社会への貢献を重視した経営にカジを切っている。
こうしたバイオコンポジットが普及した世界を、三井化学としてはどう描いているのか。「子供達が、天然繊維を使った素材やリサイクル品を『かっこいい』と思ってくれる世界になっていることを期待している」と森氏。
三菱ケミカルグループや住友化学といった化学メーカー、パナソニックなどの家電メーカーもバイオ素材の開発を進めているが、「リサイクルを含め、我々の方が優れた材料になるのではないか。数年先に、我々の競合が同じような素材をつくっているように、標準化を目指したい」と森氏は強調。
2050年の脱炭素目標に向かって、近年特に「化学」の力の重要性が増す。三井化学と日本製紙という異業種の連携。こうした異業種連携が日本の潜在力を掘り起こす。