絶対に成功させるという 責任感や使命感をもって
─ 改めて、今回の東京2020大会を開催した教訓とは何だと思いますか。
武藤 コロナで世界が分断された状況にある時だからこそ、オリンピック・パラリンピックを開催して人類の連帯を確かなものとすると同時に、未来に希望の光をともすことが大事だと思いました。やはり、やればやっただけの成果が上がり、それで世の中が良くなっていくと。そういうことを体感できましたし、それにトライしないというのは残念ですよね。
何か大きなことを成し遂げるにはリスクをとらないとダメです。無謀なリスクを取るのは勿論いけませんが、リスクが管理できるものであれば、そのリスクを最小限にしてやりぬくべきなのです。初めから全てのリスクを避けていたら、成功の栄誉は与えられないのではないかと思います。東京はコロナという危機的状況の中で大会を開催するというモデルを世界に示すことができたと思っています。
─ 正直なところ、武藤さんの心が折れそうになる瞬間はなかったのですか。
武藤 それはありましたよ。これまでお伝えしてきた通り、ここまで来る道のりは決して順調なものでは無かった。失敗も沢山有りましたし、様々な批判を受けました。正直、心が折れそうになる瞬間はありました。
─ 武藤さん自身、つらいなと思った時に逃げなかった理由は何ですか。
武藤 それはやるとなったらやらなければならない。絶対にオリンピックを成功させるんだということだけですよね。
─ 責任感であり使命感ですね。
武藤 格好良く言うとそうですね。
組織委員会は44人で始まって、最後は約7千人の大所帯になりました。組織委員会というのは臨時的な組織です。永遠の組織などないのかもしれませんが、とにかく、企業や役所のように何もなければ基本的に続いていく組織ではありません。ということは、臨時採用だとか、企業や役所の出向者で成り立っている寄り合い所帯なわけですね。
そういう人たちを束ねるには、目的とゴールを共有すること以外にありません。ですから、いかにオリンピック・パラリンピックを成功させるか。その一点だけの目的のために皆が集まり、頑張ってきたわけです。
─ 純粋にオリンピック・パラリンピックを成功させようという思いだけであると。
武藤 ええ。何をしたら出世するとか、給料があがるとか、そういう組織ではありません。ある意味で、そういう組織を管理するのはすごく難しいことなんです。
それでも、皆が逃げずに頑張ることができたのは、絶対に東京2020大会を成功させるんだという心意気であり、わたしは実際に皆で力を結集して、素晴らしい大会を開催することができたと思っています。最終的には歴史の評価に委ねたいと思いますが、職員皆が一丸となって歴史的な事業をやり抜くことができたというのは、大きな意味があったと思います。(了)