1年間で70回の社員との直接対話
─ 成長を担うのは「人」だと思いますが、その力を引き出すために必要なことは?
高橋 短期的な手当てとして、外部採用を積極的に行いました。経営陣は12人いますが、そのうち私も含めて5人が外部からきた人材で、その道の〝プロ〟を集めてきました。
一方、私は社長就任以来、人材育成に注力してきました。事業のポートフォリオや戦略は、極論すれば誰にでもつくることができます。経営の差別化要因は、戦略を実行する経営陣がいること、そしてそれをサポートする人材が育っているかです。しかも、継続的に人が育ち続ける環境が大事ですから、私は人材育成に全てを懸けています。
─ 具体的にどういうことに取り組んでいきますか。
高橋 最初に10年後の姿を考えました。価値観を共にする仲間が集まり、適度な緊張感を持ち、成功するとすごく楽しい。その中では言いたいことを上にも下にも横にも言える100%「心理的安全性」が確保されている状態をゴールにしたのです。そこに至るために何をしなければならないか?をベースに考えています。
まず、22年の1年間は「発信の年」として、私がどういう会社にしたいか、みんなにどういう社員になって欲しいかを直接語りかけるために、国内外拠点を延べ70カ所訪問し、61回の「タウンホールミーティング」を実施しました。
この中では事業所の社員全員を集めて、私の言葉で話しかけると同時に、人事責任者のCHROにも、今後の人事制度や企業文化について話してもらいました。
さらに、必ず10人くらいを集めた「ラウンドテーブル」も行い、彼らの質問を受けて、ディスカッションをしていたんです。これは110回行いました。
─ 社員からはどういう反応がありましたか。
高橋 無記名で反応を取っているのですが、「社長は怖い人だと思っていたら、面白い人でした」という意見もありました(笑)。非常にポジティブな反応が多く、嬉しかったですね。
やはり、対面で話すことは非常に大事だなと実感しました。反応の中で「もう少し時間が欲しい」、「もう少し双方向でやりたい」という意見がありましたから、それを受けて23年は少しやり方を変えたいと思います。
また、社員には「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」「機敏さと柔軟性」「枠を超えるオープンマインド」「未来への先見性と高い倫理観」が大事だと訴えてきました。この4つを会社の「バリュー」として定め、「この価値観と合わない人は辞めてもらっていい」と伝えるほど大事にし、全ての基本にしています。
─ 個人の能力を伸ばすことと、会社全体との関係をどう考えますか。
高橋 チームプレーは非常に大事ですが、個が強い人が集まることで、いいチームになります。ゼネラル・エレクトリックのCEOを務めたジャック・ウェルチは「最高の選手がいるチームが勝つ(The team with the best players wins)」という有名な言葉を残しています。私もその通りだと思います。
その「個」を育てる時に大事なのは、悪い部分を直すのではなく、いい部分を伸ばすことです。そのいい部分が違う人を集めることが、チーム力の強化につながると考えています。個々の持つ力を最適に発揮できるようなチーム編成をし、個が強いところを伸ばす。これによって全体が強くなると思っています。
─ 賃金や処遇のあり方も変わっていくと。
高橋 できるだけ「年功序列」は壊していきたいですね。頑張った人が報われる制度が大事ですし、抜擢人事も積極的に行っていきます。
─ 高橋さんは15年に昭和電工に入社しましたから7年が経ちましたね。この間の手応えはどうですか。
高橋 やるべきことはやってきたと思っています。最初にポートフォリオ変革をしなければならないと考え、独SGLの黒鉛電極事業を買収しました。
この事業が利益を上げたことでバランスシート(貸借対照表)が綺麗になりましたが、次に成長事業が必要だということで日立化成の買収を実行しました。そこで借り入れが増えたこともあって事業売却の一方で公募増資も行いました。
ここで攻めに転じることができそうだということで、半導体材料への投資を打ち出しているわけです。戦略的な打ち手はほぼ完了しましたから、私が社長として全てを懸けるのは文化の醸成と価値観の共有です。これが私のミッションなんです。