2023-03-06

【危機の中で将来の”種まき”】コマツ・小川啓之社長 「本業の追求で、ESG課題解決と収益向上の好循環を」

小川啓之・コマツ社長




営業利益率は会社の経営体質を表す

 ─ 地政学リスクが高まる中、「経済安全保障」という概念が出てきましたが、企業活動に与える影響は?

 小川 直接関係するのは輸出規制ですが、当社には輸出管理委員会などの体制を取り、コンプライアンス上、問題にならないようにしっかり見ています。

 リスクがあるとすれば産業機械です。当社にはギガフォトンという子会社がありますが、この会社は半導体を製造する露光用装置に組み込まれる光源「エキシマレーザー」を手掛けています。例えば、今後、中国の半導体産業向けのエキシマレーザー販売が規制対象となった場合は、ギガフォトンの事業に影響が出るかもしれません。

 ただ、我々のポートフォリオは建設鉱山機械分野が約90%、産業機械分野が約10%であり、経営全体にとっては大きな影響にはならないと思います。

 ─ ウクライナ戦争の当事者であるロシアにおける事業への考え方を聞かせて下さい。

 小川 従来から申し上げている通り、ロシアでは約60年事業を継続しており、お客様との関係があります。ここで部品供給やサービスを止めてしまうと、動いている機械の安全性が担保できません。

 そうなると例えば重大災害が起きた時に、PL(製造物責任)問題にもなりかねません。メーカーの責務として、日本政府が定める輸出規制にしっかり対応しながら、必要最小限の部品供給とサービスは継続して進めています。

 ─ ウクライナ戦争を受けてエネルギー、原材料価格が上がっていますが、製品価格への転嫁はどうなっていますか。

 小川 我々の経営に大きなインパクトがあるのが、おっしゃるようにエネルギー、原材料、物流費など様々な価格の高騰です。コストが大幅に上がっていますから、これをオフセットするための対策が必要です。

 製品価格には、まだ十分転嫁できていません。コストをオフセットする方策は製品価格のアップ、原価改善、成長戦略の3つしかなく、これらをしっかりと進めていく他、手はありません。

 原価改善については中計の中で、3年間で500億円という計画を立てていますし、値上げについても、まだオポチュニティがあると思います。

 コストアップと値上げとの間にはタイムラグがあります。値上げができるのは新しい受注からで、すでに受注してしまったものについては、なかなか値上げが難しい。

 コストは先に上がり、値上げが効いてくるのは後ですから、今年度下期にはこれまで進めてきた値上げの効果が出てくるのではないかと見ています。今後プラスアルファで値上げを進めることも大事です。

 ─ 小川さんが重要視している経営上の指標は?

 小川 営業利益率です。現状の我々の実力は、営業利益率10%から11%というところで、円安効果で2%ほど上乗せされている状態です。

 ただ、過去最高の営業利益率は約15%なので、それに比べると3ポイントほど落ちています。先程お話した中国市場で現地メーカー比率が高まったことや、原材料価格の上昇で利益率が下がっている。

 やはり、15%レベルをターゲットに、この中計の中で営業利益率を高めることが重要です。営業利益率は会社の経営体質を表していると思いますから、こだわっていきたいと考えています。

 ─ 営業利益率を高めるための施策をどう考えますか。

 小川 一つ重要なのがアフターマーケット、部品サービスです。我々の売上高の40%以上は部品サービスとなっています。このサービスはマージンが非常に高いですから、これを増やしていくことが利益率を上げることにつながります。

 我々はコンポーネントを自社で開発、生産している強みを生かして、部品サービスなどバリューチェーンの部分で事業拡大していくことで利益率を高めていきます。


本業を通じて社会貢献していく

 ─ 危機の時代ですが、その中で新しいものを生み出していくことが求められますね。

 小川 そうですね。我々は常に、本業を通じて社会貢献をしていくという話をしています。我々の本業そのものがESG(環境・社会・ガバナンス)の課題解決になることですし、それによって我々の収益拡大にもつながります。ESG課題解決と収益向上の好循環で顧客価値を創造し、持続的な成長を目指しているのです。

 先程お話したアフターマーケットにも、コンポーネントの再生事業が含まれています。コンポーネントを再生・再利用することで廃棄物を減らし、二酸化炭素排出削減に貢献しています。

 また、林業機械も手掛けていますが、伐採する機械にばかり注力するのではなく、循環事業としての位置づけで林業ビジネスに取り組んでいます。22年6月には、植林のアタッチメントを手掛けるスウェーデンの企業を買収しました。

 いまは、木を植えて、育てて伐採して、また植えてというサイクルを繰り返す森林の再生サイクルの中でのビジネスですが、今後、植林だけでビジネスになる時代も来るかもしれません。

 今後さらに木の需要が増えていく中で、林業ビジネスには可能性があると考えています。

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