2021-02-15

ガバナンス問題の第一人者・久保利英明弁護士が語る「コロナ禍のガバナンス」(後編)

久保利英明 日比谷パーク法律事務所代表・弁護士

─ 1950年代から60年代にかけて、何万人という人の目が見えにくくなったり、足がしびれて歩けなくなったりしたスモン病は、原因不明の奇病ということで社会問題となりました。

 久保利 当初はウイルス性伝染病ではないかということで患者さんは差別されたりして、自死する人も出て、つらい思いをすることが多かった。

 スモン病の原因がわかったのは1970年代になってからでした。スモンの患者さんは舌や便、尿が緑色になることがあるのですが、この原因を分析した結果、緑色物質はキノホルムであることが判明しました。キノホルムは整腸剤として、おなかを壊した時によく使われていた薬です。しかも、服用量が多いほど重症であることが分かってきた。だから、ポイントは薬だと。それで製薬メーカーや使用を認めた国の責任が問われ、訴訟となったんですね。

 当時は薬を大量に投与すれば効くとみんなが思いこんでいて、医者の側にも、国民の側にもそういう勘違いがあった。でも、当時の厚生大臣や役人たちは、国民の健康安全管理を担うのは厚生省だといって、国の責任を認めて和解に踏み切ったんです。

 だから、当時のエリートというのは、国民を救うために何をしたらいいのか、何が大事なのかを一生懸命に考えていたと思うんですよね。

 ─ それが原点にあるんですね。

 久保利 わたしは弁護士になったばかりだから余計に印象深いんだけど、厚生省の研究班があれは薬害だったんだと結論付けて、いろいろな抵抗勢力はあったけれども、国民を救わなければならないという点では皆一致していた。スモン病の患者さんを救わなければならないということで、行政も頑張る、司法も頑張る、われわれ弁護士も頑張るということで一挙に解決に導いていったわけです。

 翻って、今は皆ぼうっとしているように見えます。コロナ、コロナと言うだけで、コロナを悪者にして、何も動こうとしない。だけど、政治家にしても、役人にしても、司法にしても、自分たちが日本という国に対して何をやらなくてはいけないのかという使命感が欠如しているという点では、50年前の日本と比べてもはるかに劣化していると言わざるを得ません。

 

ユニクロ・柳井氏にみる使命感と覚悟



 

 ─ これはやはり、原点の欠如、危機感の欠如ということになってきますか。

 久保利 ええ。経済界でも、ユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正さん(会長兼社長)のような経営者は真っ当な危機感を持っていますよね。

 コロナで一時は店舗が休業を余儀なくされたけど、どんな時代が来ようとも、デジタル化とグローバル化が止まることはないと。この2つはこれからも進んでいくから、この2つを捨てることは自分の命を捨てることだと言って、積極的に海外展開を進めています。

 今は全ての企業がコロナで大変だと思います。でも、本当に柳井さんの言っていることを自分事として落とし込んで理解している日本人が何人いるんですか?  と勘繰りたくなります。

 ─ 本当ですね。柳井さんは昔から危機意識をもって会社を成長させ、われわれは何のために生きるのか?  何のために働くのか?  正しいことをしよう。そういう根源的な問いかけを続けています。

 久保利 これはたたき上げの創業者のみがなせることなのかもしれません。でも、そこに自分なりの自信があるんだと思うし、経営者としての覚悟があるんだと思います。もっとも、わたしから言わせれば、何のために生きているのかという覚悟と使命感がない経営者など、リーダーとは呼べませんが。

 ─ 今は動乱の時代、混乱・混迷の時代と言われます。この激動期と言われる2021年、久保利さんから各界のリーダーにメッセージはありますか。

 久保利 実は昨年、法律雑誌がつくった法律事務所の宣伝パンフレットがあるんですが、ここに沢山の法律事務所が載っているわけです。

 われわれ日比谷パーク法律事務所は、クライアントと正義の実現のために全力をつくすと書いているんですが、「正義」という言葉を使っている法律事務所はうち以外どこにもない。でも、こういう動乱の時代になると、自らの正義と信じるところに向かって突き進んでいくしかないと思うんです。

 だから、これはわたしの持論でもあるんだけど、自らの正義と信じるところに従って、命がけで戦っていく。そのためには、「やさしい心」と「柔らかい頭」、そして「勇気」という3つの「Y」が大切だと思います。弁護士に限ったことではありません。




くぼり・ひであき

1944年埼玉県生まれ。67年9月東京大学法学部4年在学中に司法試験合格。68年東京大学法学部卒業後、71年4月弁護士登録、森綜合法律事務所に入所。98年日比谷パーク法律事務所開設。2001年第二東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長。09年一人一票実現国民会議共同代表。04年~15年大宮法科大学院大学教授。14年第三者委員会報告書格付け委員会委員長。15年より桐蔭法科大学院教授。個人 HP https://kubori.jp/

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