2023-04-05

【28歳で起業、50年経った今、後継者を含む課題解決は─】 日本電産・永守重信が今、思うこと「環境激変・困難期を生き抜く人材こそ」

永守重信・日本電産会長CEO

環境激変・困難期に次の成長の種を仕込む─。「これが当社の創業以来のやり方」と日本電産の創業者 会長・永守重信氏。起業は28歳の時で、第1次石油危機が起こった1973年(昭和48年)。産業活動や社会インフラの動力源となるモーター製造を自らの仕事と決め、“困難期”に積極的な投資を展開。石油危機、バブル崩壊、進出先・タイ国の大洪水といった“困難期”の直後に増益・最高益をあげるという永守氏の経営手法。「僕はいつも足下悲観、将来楽観と言っています」という経営観。一代で世界45カ国の事業拠点、総従業員数約13万人のグループを構築。創業50周年を迎えた今、永守氏は何を思い、どう行動しようとしているのか。2030年には今の売上高の約5倍の「10兆円を目指す」として、新たな企業集団づくりに注力。今年4月には社名を、世界的に浸透しているブランドの『ニデック(NIDEC)』に変更。後継者像を含めて、永守氏が考える『世界のNIDEC像』とは─。


石油危機、タイの大洪水と困難期に勝負



「世界一の会社にする」─。

 日本電産の創業者であり、会長CEO(最高経営責任者)の永守重信氏は走りに走り続けてきた。

 1944年(昭和19年)8月28日生まれの78歳。

 創業したのは1973年(昭和48年)7月で、28歳の時。第1次石油危機が起こり、石油の価格が高騰。世界経済が大混乱に陥り、不況に見舞われた。

 そうした時の永守氏の起業である。取り組む仕事はモーターづくり。モーター領域では日立製作所、東芝といった大企業がすでに存在し、日本電産は最後発であった。そこで永守氏が狙ったのが精密モーター。

 人がやらないことを手がけ、しかも社会に必要なものは何かと考えての精密モーター領域への参入。しかも、「超精密モーターで磨きをかける」という狙い。

 今は大型モーターの領域も手がけ、自動車の電動(EV)化に向け、動力装置『イーアクスル(E-Axle)』への一大投資に注力。起業時の精密モーターからこの50年間で事業を進化させてきたということ。

 目標は高く、将来に向かって進む─。これは創業以来、「少しも変わっていません」と永守氏は今も強調。

「僕はいつも足下悲観、将来楽観と言っています。僕の経営観でね。ということは、いいこともたくさんあるけど、悪いこともあるということですからね」

 永守氏は、経営者にとって大事なことは、「将来が明るい」ということを示すことだとする。

「今がよくても、将来は暗いというのが一番よくない。うちの会社は、ずっと過去をたどっていきますと、困難の時に強い変化をするんですよ」

 先述のように、創業は第1次石油危機。1978年、1979年には第2次石油危機が起こり、エネルギー多消費型の産業や事業は大打撃を受けた。危機は人々の意識を変え、新しい産業構造へと覚醒を促す。

 第1次・第2次石油危機の後もそうだし、1990年代初めのバブル経済崩壊、そして2011年の東日本大震災、タイ国での大洪水による生産障害と危機や試練は続いた。

 危機は常に起きる。売上の中で海外が占める比率は今や9割近くになる。グローバル化が進めば進むほど、事業のリスクは高まる。そうした危機や試練にどう立ち向かってきたのか。

「一カ所に集中することは避けると。いくらその国がよくても、どんなに人件費が安くても、一カ所に集中することは絶対しない。何が起きるか分かりませんもの。タイみたいな、日本ともすごく親しい国で、人件費が安いところですが、大水害(2011年)で工場がほとんど沈みました。あの時は、そこに一極集中しないで、フィリピンと中国に工場を持っていたから、対応できたんです」

 常にリスクを勘案しながら、前へ、前へと進んでいく。「これは創業以来、全然変わらない。土の下の根っこは、何も変わっていません」と永守氏は語る。

 危機や試練に遭遇しても、マーケットに向かって戦い、挑戦し続ける。こうやって、永守氏は同社を世界45カ国の事業拠点、約13万人の従業員を抱える会社に育てた。売上高も2兆円を超えた。

 創業以来の50年を、永守氏が振り返って言う。

「この50年間は必死に働いて、他の会社に比べて2倍速で成長してきたわけです。だって、他は売上高2兆円と言ったら、百年近くかかっていますからね」

 京都の企業は独創的で、グローバル市場で存在感を示す企業も少なくない。同じ電子部門の領域で京都の企業というと、京セラや村田製作所などがある。売上高で、日本電産は先輩格の京セラや村田製作所を抜くまでになった。

「次は売上の規模ではなくて、もっと強い会社にしなければいけないと。強い会社というのは、賃金も高く払う。かつ有能な人材を集める。要は、高い給料を払ってもビクともしない。そういう会社にするのが次の50年ですね」

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