完全自動化の目途は2030年
─ これができれば監査の自動化が飛躍しそうですね。
井野 我々は企業から自動的にデータを入手して成形し、異常点を抽出するところまでを早く自動化したいです。
多くの監査現場でそのような状況になる目安を2030年頃と仮定しています。我々は「アシュアランス(保証)変革」と呼んでいるのですが、そこで時間軸を「トゥデイ」「トゥモロウ」「ビヨンド」に分け、トゥモロウが25年ぐらい、ビヨンドが30年を想像しています。
そこでは、社会のデジタル化が進み、データの利用可能性も企業単位のデータだけでなく、社会としてのデータに大きく広がっていくでしょう。
情報開示も財務情報から非財務情報の世界に広がり、財務と非財務がもっとリンクした形で企業価値や企業の成長を説明できるような報告に変わっていくと予測されます。その中で監査人としての貢献も増していくことでしょう。
─ そういった社会の変化を見越しているわけですね。
井野 はい。我々が社会の変化に対応していくためには、監査業務と監査以外のアドバイザリー業務の両方を提供し、知見の蓄積と人財の育成に強い組織でなければならないと思っています。
例えば非財務情報は、今のところは第三者が保証するものではありませんが、少なくない企業が非財務情報開示のアドバイスを監査法人等に求めています。これはいずれ第三者が保証する領域になっていく。アドバイザリー業務が先行し、保証業務となる。いわゆる「独立性」に配慮しながら様々な経験をした者が保証の安全性を高めるわけです。
将来を見据えて、いまやるべきことをやる
─ 非監査業務は伸ばしていくのですね。
井野 その通りです。企業を強くすることに貢献していかないと、その次に来る保証ができないからです。
ある日突然、保証しろと言われてできるようになるものではないからこそ、「ブローダーアシュアランスサービス(BAS)」と呼ばれる非財務情報にかかわるアシュアランス業務領域で、しっかり企業と一緒に課題解決に取り組める体制にしておかなければなりません。
─ 同時に監査はリアルタイム監査へ向かうと。
井野 リアルタイム監査では、人とテクノロジーの配分割合が変わっていきます。事実確認はテクノロジーを使って人の手を煩わせないようにする。しかし、判断領域はテクノロジーのヒントをもらいながら、やはり人が行うと。
さらには企業がクラウド型のERPシステムやデジタル化された商標書類、高度化・自動化された経理業務などの使用を通じて、デジタルデータで取引を説明できるようになり、改竄できない仕組みを整えていけば、我々は企業のデータと自動連携して、そのデータを標準化し、分析する。そうすると、リアルタイムのデータ分析と異常検知ができるようになります。
ここでは「HALO」と「不正検知AI」などを使います。HALOは半分アルゴリズムで異常点を探し、残りの半分は人間の力を使った仕組みです。不正検知AIは完全に自動化した仕組みです。HALOはもう使われており、AIは開発しながら実験しているところです。
─ 生産性が飛躍的に上がっていきそうですね。
井野 ええ。今は準備工程と言われる部分に膨大な時間と手間がかかっているのですが、それがなくなります。その代わりにAIが入ってくると、今まで人間が気付かなかった異常点のパターンが識別されるでしょうから、それらをいち早く検証し、早期の不正検出とAIの精度向上を図ることが次の課題になりそうです。
このように監査業務も非監査業務も課題を識別し、解決しながら成長戦略を進めていきます。既に当法人の収入もそのような状況を反映して監査報酬と非監査報酬がほぼ半々になっています。
PwCは日本で「PwC Japanグループ」として連携しており、その中に公認会計士法に基づく監査法人、税理士法に基づく税理士法人など業法に基づく法人があります。
そのPwC Japanグループの中の監査法人の一つとして当法人があるのですが、我々の設立は06年。まだ15年ほどの歴史しかありません。ですから、監査のシェアが少ないところからのスタートになっています。
ただ、PwCあらた設立前にPwCネットワークに加盟していた監査法人が監査していた企業の中には、今後は別の監査法人に監査は頼むけれども「PwCあらたにはこれまで監査をしてきたメンバーがいるから、うちのことを分かっているよね」という流れも出て来ました。
その結果、監査以外のアドバイザリー業務を依頼されて非監査業務が立ち上がって行きました。顧客のニーズに応えようとしながら今日に至っています。
─ それだけ信頼関係があったということですね。
井野 そうだと思いますね。特に大手金融機関とのお付き合いから、様々な非監査業務を提供する機会をいただきました。