2023-09-11

【東工大との統合】東京医科歯科大学・田中雄二郎学長が語る「教育と研究にもっと力を入れて、人々の生活を豊かにする大学を」

田中雄二郎・東京医科歯科大学学長



新大学の名称を巡る思い

 ─ 大学の新たな名称については難しい選択でしたか。

 田中 そうですね。例えば「東京医科工科大学」では長いですし、「歯科」という言葉はどうしようかと。若い人たちや様々な人たちから提案を募り、ワーキングチームを作って議論してもらったりしました。その結果、「東京科学大学(仮称)」が提案され、益先生と私とで選ばせてもらったという形です。

 ─ 「科学(Science)」を入れたのがポイントですか。

 田中 医学、歯学、理学、工学を1つの言葉で表現すると「科学」だと。さらに、もしかしたら将来、我々の後輩たちが人文科学や社会科学の学部をつくりたいと考えるかもしれません。あるいはそういう大学と一緒になりたいと思ったときに、医科工科大学だったら名前を変えなければなりません。しかし、科学大学であれば変更しないで済むと考えました。

 それで英語名は「Institute of Science Tokyo」です。「Tokyo Institute Science」という表記もあったのですが、東京理科大学が「Tokyo University of Science」です。そこで「Tokyo」を後ろに持ってきました。米国のUCLAも「University of California Los Angeles)」です。

 この名称変更は東工大にとっても大きな決断です。東工大も140年を超える歴史がありますからね。一方で本学の建学は1928年の東京高等歯科医学校ですが、1944年に医学部を併設して「東京医学歯学専門学校」となり、「東京医科歯科大学」と名乗ったのは1946年です。ですから、お互いに譲り合い、尊重し合ってというスタンスです。

 ─ では、新たな大学はどのような大学を目指しますか。

 田中 東工大は工学の再定義をしたいと言っています。再定義とは情報と人ですね。一方で我々はもっと社会に貢献したいという思いがあります。そのためには、理工学との融合を徹底的にやらなければなりません。そう考えると、新しい大学ではそれを実現することが重要になります。ですから、新大学の1つの大きな目標は「異分野融合の科学」になります。英語で言えば、「CONVERGENCE SCIENCE」です。

 これは造語ではなく、20世紀半ば、第2次世界大戦の前後で生まれた言葉で、当時は物理学と工学の融合でした。その結果、レーザー光線や原子力、CTスキャンなども成果として生まれたわけです。我々も同じように人文社会学の要素を取り入れて環境や健康の面で、人々の役に立つような科学をつくっていきたいと。そこを目指します。

 ─ 具体的な領域としては医療機器開発や創薬ですか。

 田中 そうですね。例えば創薬で言えば、今の製薬業界の世界の潮流は低分子医薬や抗体医薬、核酸医薬などが注目されています。さらには高分子と低分子の中間的な分子量である中分子創薬の研究も熱気を帯びています。中分子創薬は遺伝子が分かれば設計もできるので、すぐに薬が作れるのです。

 この中分子創薬では新型コロナのメッセンジャーRNAワクチンが代表例です。メッセンジャーRNAワクチンは約1年でできましたが、普通なら5年から10年かかるワクチンです。

 TMDUには核酸医薬で優れた研究者もおり、頑張っています。その核酸医薬における日本の第一人者の先生が既に自分の研究室に工学部出身者を迎えています。ですから、こういったことをもっと大規模に進めれば、さらに様々なことができるのではないかということです。

 実際に、遺伝子を解析するのはTMDUでもできますが、それを薬としてパッケージにして市販薬としてつくり上げるためには、化学者の力が必要になります。そういう意味では、やはり医工連携は重要になります。

 ─ 同じことが医療機器開発でもできるということですか。

 田中 はい。医療機器も世界の市場は確実に拡大していきます。先進国は高齢社会を迎えますし、医療も進歩します。特に日本は高齢先進国ですから、市場は増えます。しかしながら、医療機器の世界トップ10の企業のうちの半分は米国企業で、日本は第20位にオリンパス、テルモが第21位というのが現状です。

 そこで医工連携するための研究所を病院の横につくれば、医学や歯学とも密接に連携することができます。同意を得た上で患者さんの医療データも集積しやすく、これも研究に生かすことができるでしょう。ですから、いろいろなものが生まれてくると思います。

 課題は、そういった新たなことをやるときには、やはり大学の組織が変わらないといけません。大学の組織が、もっと産業界に開かれたものにならなければいけないのです。今はまさにそれをやろうと動いています。


「自由でフラットな文化」を

 ─ 今後の統合の成果を発揮するために必要なことは、どんなことだと考えますか。

 田中 「自由でフラットな文化」です。そういった文化をつくっていこうと思っています。日本の大学にはどうしても階層的で閉鎖的な文化があります。しかし、スティーブ・ジョブズの言う「誰が言ったアイデアかではなく、ベストなアイデアが採用される文化」でなければいけないのです。

 つまり、皆で忖度なく自由に議論して、「そのアイデアが一番良いね」となれば、それが通るような文化です。「自由でフラットな文化」がないと、異分野融合は生まれないと思うのです。そこで重要なのが「ダイバーシティ&インクルージョン」です。

 ですから企業にも、もっと大学に投資をしていただきたいと思っています。大学への投資は共同研究もあるし、大学が持っているアイデアや人材に投資していただくこともあるでしょう。大学と産業界が一緒に協力していくことが重要だと思います。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事