2023-10-16

【政界】大型でも「印象は小幅」な内閣改造 年内再浮揚に向けて政策で勝負する岸田首相

イラスト・山田紳



苦心の人事パズル

 しかし、小渕の起用は同時にリスクでもある。茂木と小渕は派閥が同じで、第3派閥の茂木派が党四役のうち2つを獲得するのは、各派閥のバランスからして異例の事態だ。

 そもそも党側での選挙指揮は歴代幹事長が担っていたが、07年、当時の首相・福田康夫が、岸田の大先輩である古賀誠を処遇するために選対委員長ポストを創設した経緯がある。このため、幹事長と選対委員長は役割がやや重複する。

 もちろん岸田には、ライバルの小渕を同じ四役に据えて茂木をけん制する狙いもある。だが、両者とも派閥内の勢力を掌握できていない中で、ポスト岸田をうかがう茂木と、党重鎮が「将来の首相に」と期待を寄せる小渕のぎくしゃくした関係が、今後の党運営にどのような影を落とすのかは見通せない。

 それ以上に危ういのが、小渕の政治資金問題への批判が再燃しかねないことだ。13日の四役就任会見で、その問題を早速問われた小渕は動揺を隠せなかった。「誠意を持ってご説明してきたが、もし十分に伝わっていない部分があるのであれば、私の不徳の致すところだ」。声は震え、目に涙を浮かべる姿に、党内からは「あれでやっていけるのか」と不安の声が漏れた。

 事前に岸田やベテラン議員らは「もう9年も経つ。みそぎは済んだだろう」と楽観視していたが、世評がどう転がるかは今後の展開次第である。政権発足当初の21年秋、岸田から幹事長に起用されながら、やはり過去の政治資金問題を蒸し返されて辞任に追い込まれた甘利明の「二の舞」にならないという保証もない。

 岸田は最大派閥・安倍派の処遇にも苦心した。安倍晋三亡き後の後継会長が定まらず、むしろ派閥幹部たちによる「船頭多くして船、山に登る」の状態が続く。同派後見役の森喜朗の意向を受け、元総務会長・塩谷立を座長とする15人もの常任幹事会を設け、集団指導体制を取らざるを得なくなっている。

 このため、15人の中でも有力な「安倍派5人衆」をバランス良く政権に取り込み続ける必要があった。だが、一歩間違えれば、お家騒動の火の粉が岸田にも及びかねない。

 政権当初から岸田を支えるお気に入りの官房長官・松野博一と、政調会長の萩生田光一を入れ替える案も浮上したが、萩生田もまた、旧統一教会問題を引きずったまま閣僚の任にあてることは難しく、経済産業相の西村康稔も含めて留任となった。

 デジタル相の河野太郎と経済安全保障担当相の高市早苗も留任させた。後ろ盾の安倍を失った高市はともかく、河野については閣内にとどめて次期総裁選に向けた動きを封じるためだ。

 ただでさえ河野はマイナンバーカード問題で矢面に立たされており、周辺は留任を「貧乏くじ」と嘆く。ただし、マイナンバーを無難に乗り越え、新たな担当分野である「デジタル行財政改革」で得意の大ナタを振るえれば、河野が再浮上する局面が巡ってくるかもしれない。

 内閣では閣僚19人中13人が交代し、うち初入閣が11人という大規模な改造になった。女性閣僚は外相に起用した岸田派の上川陽子ら5人で、過去最多タイである。ただ、各派に配慮して「入閣待機組」を多く選び、さらに知名度の高い閣僚・党幹部が軒並み留任したため、やや新味を欠いた。

 改造直後の報道各社の世論調査で、内閣支持率はおおむね横ばいとなり、改造に期待された「ご祝儀相場」は乏しかった。


政策の3本柱

 引き続き岸田は、国民の信頼回復を期さなければならない立場に置かれた。そうなれば、政権本来の任務である政策の遂行こそが、遠回りのようで最大の近道である。

 岸田は改造後の会見で、今後強化したい政策の3本柱を掲げた。第一が「経済」だ。第二に「社会」。これは社会保障や少子化、女性活躍、デジタルも含む大きな概念のようだ。第三は「外交・安全保障」である。

 奇をてらわず、極めてオーソドックスな柱立てだが、それがむしろ「原点に立ち返る」という岸田の決意を示すかのようだった。会見では個別の諸課題に加えて担当閣僚の名前を一人ひとり挙げて、閣僚たちにも自覚を促しているように見えた。

 まずは10月中にとりまとめる経済対策の充実が、政権再浮揚に向けたかぎとなる。また、旧統一教会に対する解散命令請求のタイミングや、11月末に完了が迫るマイナンバーの「総点検」、子ども予算「倍増」に向けた年末の財源協議なども焦点だ。

 それらの出来と情勢の流れを見ながら、岸田は勝負の時を沈思黙考するのだろう。(敬称略)

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