2023-11-13

長 隆・日本子育て包括支援推進機構代表理事が語る「お金がなければ人の命を救えないというようでは、真の医療とは言えない」

長 隆・監査法人長隆事務所代表(日本子育て包括支援推進機構代表理事)



自治体病院の成功例

 ─ 長さんは政府の仕事だけでなく、個別の病院改革にも携わるようになりましたね。

 長 そうですね。相当な数の病院改革に携わりましたが、最も大きく花開いたのが山形県酒田市にある「日本海総合病院」ですね。08年に市立酒田病院(400床)と県立日本海病院(528床)が統合し、日本海総合病院(646床)が設置されました。その際、経営主体として地方独立行政法人の山形県・酒田市病院機構の設立をサポートしたのですが、似通った重複する機能を1つに統合することでコスト削減を実現することができました。〝選択と集中〟を旗印にしてきました。

 指定管理者制度でも改革はできると言われたりするのですが、それでも改革は進んでいません。理由は公務員型の給与体系のままになってしまうからです。自治体が設置するが、経営は民間型の経営にしなければ効率的な運営はできないのです。

 日本海総合病院が成功例となり、全国でも独立行政法人を設立する動きが増えていきました。それに伴って業績も良くなっています。例えば沖縄県の那覇市民病院も成功しています。

 また、宮城県の大崎市民病院がある大崎市では、限られた医療資源を地域全体で最大限に効率的に活用しようということで、各公立病院の経営を強化していくため、大崎市、色麻町、加美町、涌谷町、美里町で医療提供体制の確保に関する施策の推進において相互に役割を分担し、連携することにより、大崎地域における持続的な発展を図ることになりました。自治体が連携していく動きです。

 ─ 長さんの行動が徐々に全国へ波及しているわけですね。他にも長さんは産後ケア施設の充実にも力を入れていますね。

 長 はい。これも自治体病院の改革の一環で始まったのですが、全国には自治体病院が約1000あるのですが、そのうち産婦人科がある病院は約300でした。要は数が減りつつあったのです。総務省は産婦人科を減らしたくない。そこで産婦人科で付帯事業ができないかと考えたときに出てきたのが産後ケアだったのです。

 人口減の最大の要因は子どもを産まない女性が増えていることです。そして、なぜ女性が出産しないかというと、子どもを産んでも自分を助けてくれる社会の仕組みができあがっていないからです。これを産後ケア施設を大増設することで支援してあげたいと。

 ─ 第1号が東京・世田谷区でしたね。

 長 そうです。世田谷の桜新町にある「世田谷区立産後ケアセンター」が08年にオープンしました。ここを監修したのが元東邦大学看護学部長で産後ケアの第一人者である福島富士子先生でした。開業から10年以上が経過し、世田谷区の分娩数は年間3000件を超えています。

 このセンターに常駐するスタッフは全員が助産師なんです。まさに日本での産後ケアセンターのモデル事業的な形でした。ただ当時は「日本に産後ケアセンターは馴染まない」と言われたりもしましたね。福島富士子先生は産後ケア施設の先駆けです。

 ─ 国も産後ケア施設の重要性を認識しているのですか。

 長 ここにきて大分変わったように思います。特に岸田文雄首相の打ち出した「異次元の少子化対策」という政策です。そして昨年からおじいちゃんやおばあちゃんが贈与しても年間1000万円までは贈与税が非課税になるという制度ができてはいたのです。しかし全く普及していないというのが現状です。

 というのも、この制度が実際に贈与するおじいちゃんやおばあちゃんにほとんど伝わっていないのです。さらに手続きをするためには指定された金融機関にまで行かなければなりません。金融機関が免税を代行することになっているのですが、そこがしっかりと周知されていないのです。


高齢者の税金を子育ての原資に

 ─ 日本の預貯金は1400兆円とも言われています。これを子育て支援に回すことができれば大きいですね。

 長 はい。おじいちゃんやおばあちゃんのお金を産後ケア施設の整備などに回すことができたら、もっと施設を数多く整備することができるはずです。産後ケア施設の整備だけでなく、不妊治療や認定こども園で働くベビーシッターに支払う費用の原資に回してもいい。

 おじいちゃんやおばあちゃんが孫のために贈与することができる環境が整備されているにもかかわらず、それを周知して実行する人がいないというのが今の問題なのです。ですから、まずはおじいちゃんやおばあちゃんに口座を設置してもらわなければなりません。

 口座を開設すれば、非課税限度の1000万円まで資金を移すことができます。それを税務署が金融機関に代行させるわけですが、そういった仕組みが世間一般に知られていないのです。

 ─ 周知させる取り組みは始めているのですか。

 長 私が代表理事を務める日本子育て包括支援推進機構でコールセンターを設置しました。窓口対応をしています。意思のある高齢者はかなりいるでしょうから、制度を知った人からの問い合わせが来ると。

 要は、高齢者も何もしないで自分の口座にお金を寝かせたままにするのではなく、相続税を払うことで、孫たちの世代に貢献してみてはどうですかということなのです。子どもは国の宝です。その国のためになるような、お金の使い方を高齢者の方々に今一度考え直して欲しいと思います。

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