2023-12-18

大和総研名誉理事・武藤敏郎「日本と中国は『引っ越しのできない隣人』。厳しい局面でも、とにかく対話の継続を」

武藤敏郎・大和総研名誉理事




様々な問題を巡って丁々発止の議論が…

 ─ そうした中、両国の民間対話の舞台である「北京―東京フォーラム」が、4年ぶりに対面で開催されましたね。

 武藤 はい。今回で19回目になります。23年は4年ぶりの対面による開催で、私も北京に行きました。直前に「一帯一路」の国際会議があり、その翌日に我々の会議が始まりました。

 中国の王毅外相、日本の上川陽子外相はビデオで挨拶をしました。王毅氏は親日的で知られていましたが、今は処理水のことを「汚染水」と連呼するなど、中国の立場を強調しています。

 ただ、世論調査をしてみると、処理水問題について心配だという人は中国で4割いる一方、心配ないという人も3割近くいる。日本でも処理水が心配だという人は3割ほどいる。「本当に大丈夫なのだろうか」というのは両国の庶民感覚だと思うんです。

 逆に、この問題が日中の外交関係の障害になるかという問いに対しては、中国は「障害になる」と答えた人は5%しかいないのに対し、日本には3割いるのです。中国で騒ぎになっているような報道がされていましたが、本音では両国関係の障害になるとは思っていないんです。

 ─ 元々、物事を合理的に判断する民族なんでしょうね。

 武藤 そう思います。例えば、ロシアのウクライナ侵攻をどう考えるかというと、中国では4割以上が反対だといいます。ただ、この戦争の原因をどう考えるかと問うと、日本ではロシアが悪いという答えが多いのに対し、中国ではNATO(北大西洋条約機構)の脅威を危惧しての動きなので、ロシアの身にもなる必要があるという回答になる。ただ、戦争には反対だという立場は共通しています。

 今、日中関係が極めて悪いというのは事実です。では対話が成り立たないかというと、そんなことはなくて、対話は大事だとみんな思っている。首脳間の往来も必要だと。

 そういう地合いの中で、今回の北京―東京フォーラムが行われたわけです。会場は北京国際飯店コンベンションセンターでした。主催は日本の非営利団体・言論NPOと、中国の海外向け出版発行機関である中国国際伝播集団で、私は22年から実行委員長を務めています。

 また、日本の外務省、中国の国務院新聞弁公室が後援しています。新聞弁公室は新聞、広報をコントロールしている組織で、主任は大臣クラスのポストです。

 ─ 実際に対話をしてみて、中国の姿勢をどう感じましたか。

 武藤 お互いに対話しなければいけない、ウィン・ウィンの関係をつくりましょうというわけです。日中間にいろいろ問題はあるけれども、それをどう解決するかを考えて、未来志向でやっていかなければいけないと。

 中国は多くの場合、「歴史認識」、「過去の反省」を持ち出してきます。今回は表には出てきませんでしたが、対話をしているとそういう雰囲気を感じます。ですから、その言葉が出る前に我々は「未来志向」を持ち出しました。彼らは、この言葉に反対することはできません。

 また、中国は「経済安全保障」に対して、「中国封じ込めの思想ではないか」と言ってきたのに対し、我々は「経済は安全保障だけで考えるものではないが、国家の安全保障は重要なので、限られた分野ではあるが経済の中でも必要だ」と反論しました。

 さらに「新スパイ法」に関しては、日本側から「こんな調子だと日本企業は投資できませんよ」と言うと中国側は「中国は偉大な市場だから、日本企業にとって魅力があるはず。引き続き投資を歓迎したい」との答えです。

 ─ 丁々発止の議論がなされているわけですね。

 武藤 そうです。議論の中では「処理水」の話を持ち出してくることもありました。我々は日本政府のやっていることを弁護する立場でもありませんから「そういう無駄な話はやめよう」というと、中国側も「では次の議論」という形で引く。

 そうして言論NPOの工藤泰志代表が先方と協議して、最後に共同宣言までこぎつけたのです。

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