2024-01-24

【政界】政治不信に直面する自民党 改革断行への〝覚悟〟が求められる岸田首相

イラスト・山田紳

自民党各派閥の政治資金パーティーを巡る「政治とカネ」問題は底なしの様相だ。強制捜査も始まり、永田町に激震が走った。2024年の展望は一気に視界不良となり、その影響は、国民生活にとって重要な税制などの政策決定にも及ぶ。日本のリーダーである首相・岸田文雄は、経済再生や国際的な紛争など、待ったなしの懸案に立ち向かうためにも、小手先に終わらない政治改革を今度こそ断行できるか。岸田の覚悟が問われる局面だ。

【政界】「派閥とカネ」問題で問われる自浄能力 指導力の発揮が試される岸田首相

火の玉になる

「国民の信頼回復のために火の玉となって、自民党の先頭に立つ」。臨時国会が閉会した23年12月13日夜、記者会見した岸田は改革への決意を強調した。だが、その表情に冴えはなく、心理的に追い詰められている様子がありありと見えた。

 決意のほどはともかく、具体的な踏み込みには乏しかった。今後の改革について問われた岸田は「事実を確認し、適切な対応を取る」と述べた。国会閉会後に本格化する捜査の行方を踏まえなければ、具体策や期限を考えにくいのは確かだったが、与野党から言及が出ていた政治資金規正法の改正についても「議論になることはありうる」と言葉を濁した。テレビで会見を見ていた与党関係者は「これじゃ火の玉じゃなくて、火だるまになるかもしれない」と力なくつぶやいた。

 同時に岸田は閣僚人事を行う考えを表明した。国会が閉じ、野党の追及が一段落した直後の人事は異例だ。翌14日、内閣の番頭役だった官房長官・松野博一をはじめ、東京地検特捜部が狙いを定める安倍派の閣僚4人を更迭した。

 これはその前週から、安倍派の政治資金パーティーを巡って「派閥から多額のキックバックを受けていた」との報道が先行し、松野らが極めて厳しい立場に置かれてしまったためだ。特捜部はメディアにリークする形で政権側に本気度を見せつけ、本格捜査への流れを作ろうとしたのだろう。温厚で仕事の手堅い松野に対しては、官邸スタッフの間に同情する声もあったが、流れには逆らえなかった。

 安倍派で集団指導体制を敷いていた「5人衆」、つまり松野と党政調会長・萩生田光一、経済産業相の西村康稔、参院幹事長の世耕弘成、党国対委員長の高木毅は、軒並み辞任か更迭に追い込まれ、全員が特捜部の事情聴取を受けた。

 岸田は、閣僚だけでなく政務三役から安倍派を一掃することも視野に入れていた。しかし、国会議員99人を擁する最大派閥を要職から完全に排除すれば、安倍派の暴発を招くだけでなく、党の人材払底にもつながりかねない。

「安倍派一掃」案が報じられると、萩生田は「若い人たちの芽まで摘まないで欲しい」と再考を求めたといい、結局は岸田もこの案を見送った。

 問題の発生当初、岸田は対応を派閥任せにするかのような発言を繰り返していた。12月上旬に「各派閥のパーティー自粛」「自身の岸田派会長退任」を打ち出したものの、「対応が遅い」とさらに批判を浴びた。

 だからこそ、安倍派一掃という思い切った措置に踏み切れば挽回の余地があった。ところが、一掃案が漏れた上に「数人の辞任・補充」にとどまったことで、またも中途半端な対応という印象を与えてしまった。

 松野の後任は、無派閥の元防衛相・浜田靖一や安倍派以外の閣僚経験者らに次々と断られ、岸田派の重鎮・林芳正が火中の栗を拾うことになった。岸田派にもキックバック疑惑が浮上する中、林は「私はパーティー券収入の還流は受けていない」と話した。他派閥からは「万一、林さんに政治とカネの問題が出てきたら、岸田政権は本当に終わりだ」との声が漏れた。


深まる混乱

 今回の政治資金問題は、本来あるべき政策決定と、今後の政局展望という2つの面で大きな混乱を招いている。

 まず政局を巡っては、岸田が模索してきた衆院解散・総選挙の選択肢がさらに狭まった。安倍派5人衆のキックバック疑惑が浮上して以降、永田町では「もう岸田さんは解散できないね」という会話が半ばあいさつ代わりになっている。

 それどころか、今後の解散シナリオとして語られてきた24年1月の通常国会冒頭、24年度予算成立後の3~4月、通常国会会期末の6月などが「内閣総辞職のタイミングにもなり得る」という新たな想定が加わった。疑惑を巡って議員辞職があった場合は、24年春の補選も分水嶺になり得る。

 23年12月13日、解散や自民党総裁選への対応を問われた岸田は「今は、そうした先のことを考えている余裕はない」と本心を吐露した。さらに「(政治改革などの)課題に全力で取り組む、それに尽きるんだという強い覚悟を示すことが重要だ」と続けた。この言葉を真摯に実行に移すことこそ、崖っぷちに立つ岸田が国民の信頼を取り戻す唯一の道であろう。

 次に、政策決定の迷走である。象徴的だったのは、閣僚人事と同じ12月14日に決定された与党税制改正大綱だ。

 岸田は22年末、防衛力強化の財源として法人税、復興特別所得税、たばこ税を増税して1兆円を確保する方針を決めている。ただし、増税の開始は「2024年以降の適切な時期」とぼかしてきた。定額減税との整合性を取るため、岸田や萩生田は24年からの実施はしないと明言したが、岸田は「開始時期だけは今回決めてしまいたい」と考えていた。

 しかし、政治資金問題が政権を直撃し、岸田は方針転換を余儀なくされた。もともと党内の積極財政派は増税に消極的だった上に、「政治家はパーティーで儲けて、国民には痛みを強いるのか」という世論の反発も恐れたのだ。「今年(23年末に)決めることは、今の政治状況からして難しい」。党税調会長・宮沢洋一は先送りを表明した。

 22年末に改定された国家安全保障戦略などの安保3文書に基づき、増税は27年度には実施されている必要がある。前回の税制改正大綱は「複数年かけて増税する」との方針も示している。このため25年までには開始時期を決めなければならないが、その間に党内から「防衛費は増税より国債で賄うべきだ」との主張が再燃しかねない。

 ただし、日本の領土・領海・領空を守るための防衛力強化は、現在の「政治とカネ」とは全く別の重要課題である。政権は目の前の批判から逃避するのではなく、正面から国民に説明を重ね、負担増への理解を求めるのが筋だ。岸田と自民党には今後、その覚悟を問われる場面が必ず訪れるだろう。

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