2024-01-24

【政界】政治不信に直面する自民党 改革断行への〝覚悟〟が求められる岸田首相

イラスト・山田紳



野党の漂流

 自民党税調の頭越しに岸田が表明した定額減税(1人あたり所得税3万円、住民税1万円の計4万円)は、24年6月からの実施が決まった。岸田は公平さを欠くとみて所得制限には慎重だったが、党側の要求により、物価高の影響が少ない年収2000万円超の高所得者は対象外とされた。

「国会議員も恩恵を受けるのか、と批判されないための予防策」と省庁関係者は解説する。政治資金問題を受けた党側の焦りは強く、岸田もそれを抑えられなかった。

 野党にとっては、この状況は本来、千載一遇のチャンスである。政治改革の道筋を先に示し、岸田に「信を問え」と迫れる局面だ。にもかかわらず、臨時国会の最終盤、野党の連携は相変わらずちぐはぐだった。

 野党第1党の立憲民主党は、内閣不信任案の提出に慎重な意見が強かった。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者を救済する特例法案の成立が危うくなること、そして「国会会期延長や衆院解散があれば、特捜部の捜査が遅れかねない」という理屈である。執行部の及び腰に、ある立憲議員は「いま不信任を出さず、いつ出すのか。世論も必ずついてくるのに」と不満を漏らした。

 逆に、日本維新の会は、立憲に対して内閣不信任案の提出を要求した。「夏になれば盆踊りをするように、会期末になれば不信任案を出す」と、かつて代表・馬場伸幸は立憲を冷笑していたが、それを一転させた背景には、世論の高まりに加え、野党陣営を束ねる立場にないことからくる「軽さ」もうかがわせた。

 立憲代表・泉健太の判断で、内閣不信任案は臨時国会の最終日に提出され、野党は軒並み賛成した(与党の反対で否決)が、内情はお粗末だった。

 混乱は国民民主党にも及んだ。自民、公明、国民民主3党は、ガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の凍結解除について協議してきたが、国民民主が不信任案に賛成したため、与党は税制改正大綱にトリガー条項に関する記述を見送った。

 国民民主代表・玉木雄一郎は、凍結解除の実現に政治生命を賭けると公言してきたが、12月15日に記者団から問われると「不信任賛成に瑕疵はない」「悪いのは与党だ」と言い張った。そもそも与党は凍結解除に消極的で、「自公国」の枠組みも変わらざるを得まい。


「大綱」の価値

 政治資金問題で自民がパニックに陥り、野党も勢力を結集できない現状は、国民にとって不幸というほかない。自民の非主流派や公明党からは、岸田に対して政治改革を求める声が強まる。公明幹事長・石井啓一は「次期通常国会は政治改革国会の色合いが強くなる」との見通しを示した。政治資金規正法の改正は焦点の一つだが、現在の惨状を見ればそれだけで済むはずもない。

 そして、リクルート事件後の1989年5月に自民党が機関決定した「政治改革大綱」が、改めて政界の注目を集めている。大綱からは、30年以上を経た今にそのまま通じる危機感が読み取れる。

「政治資金は庶民感覚からかけはなれるほど肥大化し、本来の政策活動に要する資金さえ、国民から理解されない」

「派閥中心の党運営が続くならば、(自民)党が真の意味での近代政党、国民政党へ脱皮することは不可能である」

 岸田は年明け、党総裁直属の政治刷新本部を設置すると表明した。自民党は、半ば忘れかけていた政治不信からの脱却という難題に今度こそ挑まなければならない。岸田は旗振り役として強いリーダーシップを示すときだ。野党も改革に積極的に参加することが求められる。

 一方で与野党は、目下の物価高など、日本が直面する諸課題の解決にも並行して取り組む必要がある。24年の元旦には能登半島を震源とする大地震が発災し、被災者支援は急務だ。政治家たちが己の保身に汲々としている場合ではない。(敬称略)

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