2024-02-08

【政界】補選回避の4月解散説も浮上 経済再生や外交政策で覚悟が問われる岸田首相

イラスト・山田紳



完全なデフレ脱却に自信

 肝心の岸田はどのような展望を描くのか。今年衆院選が行われるタイミングは3つある。

 1つは4月だ。前衆院議長の細田博之の死去に伴う島根1区の補欠選挙は4月28日投開票が確定的だが、補選は増える可能性がある。裏金事件で3月15日までに選挙区選出の議員が辞職すれば4月補選になるためだ。大きく負け越せば、「岸田では選挙に勝てない」との岸田降ろしが吹き荒れる可能性が高い。

 前首相の菅義偉が2021年に退陣したきっかけも、4月の3つの補欠選挙などで1つも勝てず、側近の小此木八郎が閣僚を辞して臨んだ8月の横浜市長選に敗れたことだった。「菅では選挙に勝てない」との空気が自民党に広がり、菅は9月の総裁選出馬断念に追い込まれた。

 ただ、今春以降は岸田にとって好材料がそろう時期でもある。岸田は1月5日、経済三団体共催の新年会で「所得と成長の好循環が本格的に動く新しい経済ステージに向けて、物価上昇を上回る所得増を実現しなければならない」と完全なデフレ脱却への決意を示した。

 順調ならば24年度予算は3月中に成立し、1人あたり4万円の定額減税の関連法も成立して6月実施が確定する。3月中旬には、岸田が「23年を上回る賃上げの実現」を経済界に求めた春闘の大手集中回答日だ。経団連の集計で31年ぶりの高い水準率となった昨年の3.99%を上回る賃上げは現実味がある。

 4月には国賓としての訪米も調整されている。実現すれば9年ぶりだ。国際情勢が混迷する中、外交や安全保障の安定度をアピールする機会となり得る。

 さらに日銀の金融緩和政策の出口についても早期に結論が出る可能性がある。異次元の金融緩和策の柱として16年1月から続いてきたマイナス金利を解除することで、完全なデフレ脱却を目指す、と見る向きは多い。株価は年初から大幅に上昇し、経済活性化を後押ししつつある。

 永田町の一部では、24年度予算成立と共に岸田退陣という花道論もささやかれる。しかし岸田本人にその気が一切ない。

 能登半島地震発生の前、岸田は周囲に「24年は完全なデフレ脱却に向けた条件が出そろう」と語り、国民の感情が前向きになるという手応えを感じていた。

 花道論どころか、補選が劣勢になると見極めた瞬間、補選を回避して衆院解散・総選挙を断行するとのシナリオもあり得る。立憲民主党は相変わらず支持が広がらず、日本維新の会も全国的な浸透は図れていない。

 裏金事件の影響は深刻で、12年初当選の衆院4期以下の議員には初めての逆風下の選挙となる。相当数が落選する可能性はあるが、290余りの議席を持つ自民、公明両党が過半数(233)を割ることはないと判断すれば、岸田が解散を断行する可能性は大いにある。

 次は通常国会が閉会する6月下旬から9月の自民党総裁選の前までの間だ。このころの岸田はますます苦しくなっているに違いない。補選で惨敗すれば「岸田では選挙に勝てない」との空気が蔓延するだろう。

 総裁選前に解散して勝利し、総裁選無投票再選を目指す、というのが岸田の理想だったかもしれないが、実はこれを実践した総裁は1人もいない。

 無投票で再選した自民党総裁は過去7人いるが、総裁選直後に前任者の残り任期が満了し、総裁選を行わなかったケースが多い。およそ2年以上首相を務めた上で、総裁選で無投票再選したのは1984年の中曽根康弘、97年の橋本龍太郎、2015年の安倍の3例あったが、いずれも衆院選とは無縁だった。

 3つ目は総裁選後だ。岸田が再選していれば可能だろうが、そもそも再選のハードルが高い。

 総裁選には、岸田が出馬した場合でも石破茂や高市早苗らの立候補が想定される。岸田の後継が誰であっても、就任直後に解散・総選挙を決断することは容易ではない。岸田が首相就任直後に臨んだ21年の衆院選は、議員の任期満了日を超えて行われた戦後初の事態で、解散の是非を判断する余地はなかった。09年の麻生太郎、20年の菅は首相就任直後の解散を狙ったが、決断には至らなかった。

 年内解散がない場合はどうか。25年は10月に衆院議員の任期が満了するので確実に衆院選が行われる。ただ、7月には参院選がある。衆参ダブル選は1986年以来ない。衆参ともに敗北するリスクもある選択をできるかどうか。ダブル選以外に同一年に衆院選と参院選を別々に行った例は83年が最後だ。1年に2回も国政選挙を行うことは国民の理解が得にくいだろう。


国際的にも不安定化

 もっとも、こうした政局に没頭するほど日本を取り巻く国際環境は容易ではない。1月13日に行われた台湾総統選は与党・民進党の頼清徳が当選し、今後「台湾独立」色を強める可能性がある。5月の総統就任に向け中国が軍事的圧力を強めることも予想され、台湾情勢が不安定化することもあり得る。

 今後も3月にロシア大統領選、4月には大統領の尹錫悦の支持率が低迷する韓国で総選挙、春にインド総選挙と日本周辺の各国で選挙がめじろ押しだ。何よりも11月の米大統領選は世界的な影響が大きい。バイデンが再選してもトランプが返り咲きを果たしたとしても、米国の不安定化は必至だ。この状況で日本も政治が不安定化すれば、中国やロシア、北朝鮮などの強権国家を利することになる。

 世界的な「選挙イヤー」にあたり、岸田は「これからの10年を決める1年になるかもしれない」と語る。その岸田自身が首相続投に向けもくろみ通りに進めるかどうか。経済再生や安全保障など課題が山積する中で岸田の〝覚悟〟が問われる局面だ。(敬称略)

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