2024-02-06

日本病院会会長(相澤病院最高経営責任者)相澤孝夫「危機時には司令塔をつくり、情報を共有することが大事」

相澤孝夫・日本病院会会長(相澤病院最高経営責任者)



病院と診療所の役割は違う

 ─ 国家的な課題解決に向けて、どう行動していくかという基本軸が政治や行政、社会の各領域で定まっていないと。

 相澤 その通りです。自由と言う名の隠れ蓑を作ってしまったのです。自由の裏側には責任と規律が必要です。そこを大きく取り違えてしまった。そう考えると、本当に議会制民主主義を敷き、議会で首相を選ぶことが本当に良いことなのか。それとも大統領制のような仕組みで国民全員が投票して、私たちのトップはこの人なので、その人の言うことに従うとするのか。

 そういうことを含めた、この国の方向を決めていくためにどうしたらいいのかを考え直すときにきています。ですから、仕組みなどを考え直すのは大きな課題だと思います。この国のカタチ、この国の在り様を見直さなければならない時期に来ています。この国はそういった点で、ちょっと変ではないかということのサインを出したのがコロナではないかと思っています。

 ─ そういう中で相澤さんが理事長を務める長野県の相澤病院は地域医療を守るための病院同士の連携を全国でもいち早く実現し、「松本モデル」とも呼ばれるようになりましたね。

 相澤 私が参考にしているのは明治維新です。その根源を調べると山口県の小さな松下村塾から起こりました。そういうところからきちんとした物事を正しく伝えて、正しく変えていくことをやっていけば、そのときの小さな成功が後の大きな成功や成果を生み出していくんだと私は信じています。

 確かに、これまでに作られてきた様々な仕組みや習慣を継続していくことが当たり前だと思っていた方が楽ですし、人と争わなくて済みます。その方が自分の身や地位の安全も守れるでしょう。しかし、それに終始してきた結果が今の日本の姿です。政治家も正しいことは国民に向けて厳しい内容でも理由をきちんと説明して納得してもらう努力をしなければなりません。

 ─ 日本病院会は病院が所属する組織ですが、病院のあるべき姿をどう考えますか。

 相澤 そもそも病院に対する人々の理解が足りておらず、一方で病院も人々に理解してもらう努力をしてきませんでした。病院は開業医の先生と違って、いろいろな職種の人々が専門的な能力を発揮する場所です。たくさんの職種の人が働くチームで医療をやっているのです。それは診療所と全く違います。

 これを「組織医療」「チーム医療」と言うのですが、チームで医療をやっていかないといけないのです。このチームをどうしていくかが重要な課題になります。ですから、病院という組織を動かしていくためには何が必要かを考えていかなければならないのですが、残念ながら自分の専門性を高めることに、各専門家は一生懸命なのです。

 病院という組織はそういう人たちがきちんと仕事をして、良い成果を出すという組織に変えていかなければなりません。病院は公的価格で動いています。この公的価格がきちんとチーム医療をやっていくというところに焦点を当てて設定をしてもらわないと、うまくいきません。


ムダやムラを減らす取り組みを

 ─ チーム医療を取り巻く環境がガラリと変わったと。

 相澤 そうです。今はチームという概念が病院の中だけではなく、一定程度の広さを持った地域全体で考えなくてはならなくなりました。地域内にある病院や診療所、あるいは介護サービス施設、行政などがチームとなって、その地域を守っていく仕組みが必要ですが、それができていないのが現状です。

 院内もチームで動き、地域でもチームを作ってチームで動くと。そういう意識改革や仕組みの改革をやっていかないと、大きなムダとムラが出てきてしまいます。働き手が減っていくという中では、そんなムダやムラを垂れ流しにするようなことは許されない時代になっていると思うのです。

 医療提供体制の改革は絶対必至です。それが少ない人数で効果的かつ効率的な医療を提供していくことにつながっていくと思います。それを皆さんに理解、納得してもらったり、そちらの方向に向かって動いていけるように我々、日本病院会が国や関係機関にも働きかけていくことが大切だと思っています。

 ─ 社会保障費は年々膨大し、日本の財政を圧迫しているとの指摘もありますからね。

 相澤 ええ。だからこそムダとムラをなくしていかなければなりません。高度成長期は各病院が自由に自分のやりたいことをやってきました。地域のチーム医療など考える必要もなかったのです。

 しかし、今はそういう時代ではありません。個々の病院や診療所、行政などが地域でどんな使命と役割を担うのかといったことまで考えていかないと、医療費の削減はできないのではないかと思います。

 何が問題で、その原因は何なのかをしっかり突き詰めて、単に表面に現れてきた事象にとらわれず、根本問題が何なのかをしっかり見定めて全体の仕組みを変えていくことが必要なのではないでしょうか。

(次回に続く)

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