2024-02-08

監査法人長隆事務所代表・長隆「未来を担う子どもを育てるためにも、出産疲れの女性をサポートするためにも産後ケア施設が大事」

長 隆・監査法人長隆事務所代表



医療改革に身を投じた第一歩

 ─ 政治家も政策の重点を介護の充実に向けなけなければならないと考えていました。

 長 そうです。そんな山崎さんの話を聞いて、これは私のやるべき仕事であると思ったんです。調べてみると、公立病院では産婦人科医が確保できなくて産婦人科をなくす病院が次々と出てきていました。この現実も私が産後ケアに力を入れる原体験になりましたね。

 ─ 公立病院が産婦人科を設けない理由とは何でしたか。

 長 要は産婦人科はリスクが大きいのです。そして有効な一手が打てずに、どこの公立病院も経営がどんどん悪くなっていきました。そして再建事例を具体的につくらなければならないということで、当時の菅義偉官房長官が私に指示したのが06年8月に財政破綻した北海道夕張市の病院再生でした。

 夕張市の財政破綻の原因の1つに負債が数百億円規模に達するまで粉飾決算のようなことをしていたことが挙げられるのですが、さらに市の財政負担を重くしていたのが市内で唯一の総合病院だった夕張市立総合病院だったのです。

 ─ 公立病院が市の財政を圧迫していたと。

 長 そうです。約180床の病院でしたが、この病院の再建は避けて通れませんでした。そこで私は財政破綻した8月に10人くらいの職員を連れて夕張入りし、1カ月で全員解雇という非常に厳しい方針を出すことになりました。このときは本当に辛い思いをしましたね。

 ただ、このとき私が公立病院改革の旗印に掲げていたのは「選択と集中」でした。日本は医師不足に直面しており、その状況を解消するためにも、これは最も必要なことです。医師が働きやすく、先端医療技術も学べるような病院に統合して多すぎる病院の数を整理しなければなりませんでした。


これからの監査法人の役割

 ─ 長さんが医療改革に身を投じて五十余年です。今後の自らの役割をどう考えますか。

 長 1200兆円を超える国の借金を抱える日本の財政問題は超高齢社会の一層の進展に加え、コロナにより深刻度合いは一気に増しました。これは地方も同様です。そのため、万年赤字の公立病院の改革は財政問題とは切っても切り離せません。

 その中で我々のような監査法人には基本理念が求められてきます。実際、当法人では「すべての人に健康と福祉を 住み続けられる町づくりに貢献する」と掲げています。監査法人の使命は監査をすることが主です。ですから、監査法人の理念には監査の質について謳うケースがほとんどありません。

 ─ 単に監査をやればいいというスタンスではないと。

 長 はい。基本理念すら掲げていない監査法人がある中でも、私は監査を通じて何を実現するかが重要だと思うのです。

 ─ 企業と同様に監査法人もこの理念が大事になると。

 長 そうです。監査法人は単に監査をしてあげるという姿勢ではなく、民間企業と同じように、持続可能な町づくりに貢献するという目標のために監査をしているという志が必要です。

 実はこのモデルになったのが福島県須賀川市にある公立岩瀬病院のケースになります。岩瀬病院の母体は幕末に東北の水沢(現奥州市)に生まれ、外科医をはじめ、台湾総督府民政長官や南満州鉄道総裁、内務・外務大臣などを歴任した後藤新平伯爵が医師になるために学んだ須賀川の医学学校になります。

 ─ 後藤新平は台湾の開拓にも携わり、拓殖大学の第3代学長も務めましたね。

 長 はい。以前、岩瀬病院に行ったとき、病院内に後藤新平記念館があり、後藤新平伯爵ゆかりの品が展示されていたのを見て感銘を受けました。そんな岩瀬病院が今では子どもを産めて育てられる町として須賀川市の復活に貢献しています。

 実際に周産期医療や産婦人科を復活させているのです。地方創生の一環で原子力発電所のある地域に対する交付金が出された際、岩瀬病院は子育てに関する設備投資に当てたのです。他の自治体もこういった事例をモデルにしていくべきではないでしょうか。

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