2024-02-05

<世界が混沌とする中、日本の立ち位置は?> 答える人 前防衛大学校長・國分良成

國分良成・前防衛大学校長



日本は目を覚ませ!



 ─ では、そうした状況を踏まえた上で日本がすべきこととは何なのか?

 國分 日本は有事に向けて、きちんと平時から準備ができているかどうかが問われている。日本では喉元過ぎればどうにかなるというような空気が支配的です。

 日本は戦後80年近く、本当の危機意識を持ってきませんでした。何かあったら日米安保で米国が守ってくれる、静観していれば大丈夫だと考えてきた。ある種、他力本願的な考えが非常に強かったと思います。

 また、平和というものは、日本があまり関与しなければ維持できるんだと考える人たちも多かったと思います。しかし、冷戦崩壊から30年以上が経った今、世界と日本の周辺で起こっている安全保障の危機は本物です。こちらから手を出さなければ平和は保てるという考えも、ロシアのウクライナ侵攻やガザ紛争を見れば成り立ちません。

 危機を扇動したいわけではありません。すべての紛争において、対話による外交がまず優先されるべきです。しかし世の中には偶発的な事件もあり得るわけです。きちんと安全保障に対処するという平時からの準備が足りなかったから、今になって慌てているのです。

 ─ 日本は平和ボケしてしまって、ほとんど準備をしてこなかったということですね。

 國分 ええ。ウクライナで戦争が発生してから、日本人の危機意識は高まったと思いますが、2年が経つと徐々に関心が薄れていますよね。ウクライナの人たちは可哀想だと言うけれど、だったら日本人は何ができるのかとか、そういう議論は何もありません。

 政府が防衛費の増額を決めて、これから5年間でNATO(北大西洋条約機構)並みに、防衛費をGDP(国内総生産)の2%まで持っていこうと言っても、財源をどうするんだとか、人をどう確保して配置するかといった議論を今になって慌ててやっているわけです。東アジアの脅威は今に始まったことではなく、以前からずっとあるのに手を打ってこなかったわけですね。

 結局、有事になって議論をするのでは遅い。これまでは根拠のない楽観論でどうにかなるとか、米国が助けてくれるという感覚が強かった。政治の世界が中心になって、国民的議論を喚起すべきです。

 ─ 当然ですが、いつまでも他人ごとではいけない。自分のことは自分で守るというのが、まずは基本ですね。

 國分 もちろんです。やはり、わたしは平和というのはつくるものだと思います。ですから、当然、戦争は避けなければならないし、危険な状態をつくり出さないためにも、一定の対応能力、ディフェンス能力はどうしても必要です。

 日本はGDPでドイツに抜かれるとか、頼みの経済力や技術力でも存在感を失い、安全保障にしろ、経済にしろ、国としての戦略がはっきりと見えてこないですよね。これでは若者に夢がなくなる。わたしはこれが一番怖いことだと思っていまして、本気でこの国がどうやって生きていくのか。今こそ真剣な議論が必要だと思います。

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