2024-02-21

日本病院会・相澤孝夫会長(相澤病院最高経営責任者)「データに基づいた病院の集約・再編は必要。ムダとムラをなくす医療計画を」

相澤孝夫・日本病院会会長(相澤病院最高経営責任者)

患者の具合に応じて公立病院と民間病院が病院機能に応じて役割分担するといった病院間連携を実現した「松本モデル」。それを支えた日本病院会会長で長野県松本市にある相澤病院の最高経営責任者・相澤孝夫氏。コロナ禍では長野県3市5村の地域にある病院が連携・役割分担し、地域の医療を守った。この成功例を全国に広めていきたいと語る相澤氏。病院の役割分担をどのように図るのか。そのためにはどんな意識改革が必要なのか。その処方箋を示す。

日本病院会会長(相澤病院最高経営責任者)相澤孝夫「危機時には司令塔をつくり、情報を共有することが大事」


事実を示すデータが重要

 ─ コロナ禍では医療機関の連携が求められるようになりました。相澤さんが最高経営責任者を務める相澤病院がある長野県松本市では「松本モデル」という行政と病院などの連携が注目されましたね。どのように取り組んだのですか。

 相澤 私のスタンスは起こっている事実を示すデータをきちんと集め、そのデータを分析することによって論理的に皆さんが納得できるものを作っていかなければならないというものになります。これは地道な活動ですが、それは欠かせないと思っています。本気で行動してもらうためには、心にストンと染みこむ納得感がなければ難しいと思っているからです。

 自由や民主主義には規律や責任が伴います。しかし、今の日本の医療界では、そういったものがどこかに置き忘れてしまっているように感じられるのです。コロナ禍を通じて、ある一定の規律を守りながら、自分たちの地域を自分たちでどう守っていくのかという議論を平時から行っていなければなりません。

 ─ では、公立病院と民間病院が連携した松本モデルの骨子はどんなものになりますか。

 相澤 松本モデルは松本、塩尻、安曇野市など3市5村にまたがる「松本医療圏」と呼ばれる二次医療圏をカバーする形となっています。この医療圏の人口は約43万人です。この中には感染症指定医療機関である松本市立病院を中心に、国立や公立、日赤、民間が運営する二次救急医療を担う病院が計8病院あります。

 コロナ禍ではコロナ患者の受け入れは症状や各病院の設備などに応じて分担しました。信州大学附属病院は重症患者さんを、相澤病院は重症患者さんと中等症患者さんのほか、透析患者さんを担当しました。また、松本市立病院が主に中等症や疑似症患者さんを診ました。

 病院の役割分担の1つの考え方としては、まずは医療圏という地域の区切り方を見直す必要があります。これは昭和60年につくられたもので、今とは交通事情などが全く違います。


役割を分担した病院の分類

 ─ 高速道路が造られたりしているわけですからね。

 相澤 ええ。ですから、もう少し広域で仕切り直す必要があると思うのです。例えば、それほど日常ありふれた疾患ではないけれども、かなりの医療資源を投入しないと治療できない患者さんを診療する場合には広範囲から患者さんに来ていただかないといけません。そういう患者さんを各地域でバラバラに診ていたら、ムダとムラが起こるからです。

 このように、もう少し広い範囲で区切って治療できる病院を「広域型病院」と言っています。そのように見ていくと、やはり人口100万人単位が1つの目安になるのではないかと。100万人単位の地域の中で、広域型病院が2~3つあるといったイメージですね。それらがお互いに役割分担をするわけです。

 一方で、広域型病院に行くほどではないけれども、発症頻度が高く、しかも入院して治療しなければならない患者さんを診ていく病院も必要です。そういった病院を「地域型病院」と呼んでいます。広域と反対の概念として地域という言葉を付けています。これらの病院の組み合わせで地域を守っていくと。

 ─ となると、地域によっては再編にもつながります。

 相澤 はい。地域によっては、病院を集約化、集中化する必要があるでしょうね。当然、人口が多くなれば病院の規模も大きくしなければいけないのですが、規模が大きくなったからといって、地域型病院の機能を変えることは絶対にしてはいけません。地域型病院の規模を大きくしたからといって、広域型病院と同じことをやろうとすると、そこにムダとムラが出てきます。

 その地域で人口が多かったら、その地域にある病院は大きくしなければなりません。逆に、人口の少ない地域をカバーするのであれば、病院の規模も小さくすればいいわけです。地域ごとに、よくある疾病をしっかり診ながら地域の人々の安心を守るようにすることが大切です。

 ─ あくまでの地域の実情に病院を合わせていくと。

 相澤 そうですね。ですから、もっと地域に根差している地域型の病院もあっていいわけです。私はそれを「地域密着型病院」と呼んでいるのですが、往診や在宅の患者さんに対する訪問診療、あるいは介護も手掛けるような地域に密着している病院です。患者さんの日常生活の場にまで入り込んでいる病院です。

 そして、地域密着型病院では対応できないような患者さんは広域型病院などにお願いして診てもらい、治療が終われば、また地域密着型病院で診るようにすると。ですから、地域密着型病院は「かかりつけ医」の機能も持つということになります。

 地域の住民の具合が悪くなれば地域密着型病院の医師が必ず医学的な判断をし、その患者さんにとって適切な医療を行えるようにするわけです。自分の病院で処置できるのであればそれでいいですし、地域型病院に行った方が良ければそちらにお願いする。地域型病院でも難しいようであれば、広域型病院に行っていただければ良いわけです。

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