2024-02-21

日本病院会・相澤孝夫会長(相澤病院最高経営責任者)「データに基づいた病院の集約・再編は必要。ムダとムラをなくす医療計画を」

相澤孝夫・日本病院会会長(相澤病院最高経営責任者)



地域に暮らす患者が安心できる

 ─ 患者の病状ごとに診療する病院を変えていくのですね。

 相澤 ええ。そうしないとムダとムラが必ず地域で発生してしまいます。当然、このような体制を構築すれば、病院ごとに外来機能も違ってきますし、入院する患者さんの層も違ってきます。入院費用も差がついてくるでしょう。外来も機能によって点数の差が出てきます。それは当然といえば当然です。

 したがって、そういう病院ごとに持っている機能を発揮したのであれば、そこにお金を診療報酬という形で差し上げることが大事になってきます。病院が自らの機能をしっかりと守っていく。今後も自分の病院の機能を発揮していく。それは広域型病院も地域型病院も地域密着型病院も同様です。ですから、そういった形を守ってもらうために、診療報酬で国が保証していかなければなりません。

 ─ 根本から医療体制のカタチを作り直していかなければならないときと言えますね。

 相澤 その通りです。今の医療計画(医療圏の設定や病床数、病院や救急体制の整備について策定する計画)は都道府県が策定することになっています。私は都道府県に対し、各病院が「私たちの病院はこういう機能を持って、この地域を守っていきます」と約束をすることだと思っているのです。したがって、各病院は自らの機能を絶対に果たしていかなければなりません。

 ただ、その機能を果たしていく過程で、例えば老朽化に伴う病院の建て替えをしなければいけないといった事態が起こったときには都道府県に工面していただくと。建て替えになると、相当な資金がかかってしまいますからね。しかし、その病院が自らの機能を果たし、地域の医療を守っていくためには必要なことですから、そこは都道府県にお願いさせていただくと。

 私はこのようにすれば地域の医療を守ることができ、その地域に暮らしている人も安心して住むことができると思うのです。どんな病気になったとしても大丈夫だと思って暮らせますからね。少なくとも医療に関しては、安心して暮らせる地域をつくるというのが私の夢なのです。

 ─ そういった新たなモデルを提言するためには強力なリーダーシップが求められます。

 相澤 そうですね。ただ、それだけでは足りません。冒頭で申し上げたように、その提言を裏付けるきちんとしたデータが必要です。誰もが見ても「その通りですね」と納得していただけないと話は進みません。そして、病院はもちろん、地域全体に「チーム医療」という考え方が共有されていなければなりません。自分たちだけの範囲の中だけの発想ではできないのです。

 その点、相澤病院は恵まれています。年々、医師の数も増えており、今では160人を超えました。看護師も500人を超えました。しかし、病院の経営は赤字です。病院が医師を集めれば、その分、他の病院を支援しなければならないからです。それだけコストはかかります。

 ─ 救急医療はまさにその典型例と言えますね。

 相澤 そうです。ただ、こういったことは全国でもできると思うのです。我々のような医師や看護師を集められる病院は必ずあると思うのです。そういう病院が「地域」という概念を持って、その地域内にある複数の病院と一緒になって地域医療をどうしていくかを考える。

 その中で、これまで通りの医療提供態勢ではダメだとの考えが共有され、目指す概念がしっかりとあれば、必ずうまくいくと思います。ただその場合に、突然そういったことを言い出しても、なかなか行動できません。データを示しても、なかなか前には進まないのです。

 そうであるならば、どこかが成功事例を示し、「こうやればうまくいくのだな」と分かるようにすると。そういった小さな成功を少しずつ作っていけば、それはいつしか大きな成果になっていくのではないか。それが私の発想です。それは歴史が証明しています。明治維新のときがまさにそれで、各地で火の手が上がって一気に全国各地が変わっていきましたからね。


製薬にまつわる国家戦略を

 ─ 松本モデルがその起点になることが期待されます。最後に医薬品についてです。コロナ禍の感染拡大期、日本は1つのワクチンも作れませんでした。この課題に対しての方策とは。

 相澤 この国が薬を作るということに対して、国家戦略をしっかりと持っているかどうかだと思います。今のところその国家戦略がありません。各製薬会社に任せてしまっているのです。自由主義で「どうぞ自由にやってください」といった具合です。

 しかし、そのままにしておくと、先ほどの医療提供体制と同様のことが起こってしまいます。つまり、各病院が自由勝手に自分のやりたいことをやり始めれば収拾がつかず、ムダとムラがたくさん出てきてしまうわけです。これが製薬の世界でも起こってしまうということです。

 そうではなく、国家戦略として、日本の製薬をどうしていくのか。それを決めなければなりません。これも決して一筋縄ではいきません。ですから、これもできるところからしっかりやって成果を示し、その小さな成果の積み重ねが大きな成果を生んでいくというサイクルをつくっていくしかないと思います。

 日本病院会でもこういったことに取り組んでいきますが、やはり実行しなければ何の意味もありません。しかし、大変な労力と時間がかかることは事実です。これまで当たり前だと思ってきたやり方や仕組みを変えていかなければならないわけですからね。それでも誰かがやらなければならないのです。

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