2024-05-09

小宮山宏・三菱総合研究所理事長「成長している北欧の国には危機感がある。日本も高齢化、環境、雇用の観点で新たな社会像を」

小宮山宏・三菱総合研究所理事長




将来の電力消費量をどう賄うか?

 ─ 脱炭素も世界的な課題ですが、日本のエネルギーの先行きをどう見ていますか。

 小宮山 今、私が言っているエネルギーに関する課題は電力の不足です。今の日本の発電量はざっと1000テラ(1兆、10の12乗)ワットアワーです。それが脱炭素の目標年である2050年には2000テラワットアワーになると考えておく必要があると考えています。この時には脱炭素で石炭・石油・天然ガスは燃やすことができず、ほとんどが電気になっているでしょう。

 デジタル化の進展で電力消費量は増大しています。デジタル化がなければ1500テラワットアワーで足りると思いますが、AI(人工知能)などは莫大な電気を消費しますから、余裕を見て2000テラワットアワーは必要だろうと。

 その電気を何で賄うかというと、再生可能エネルギー以外では原子力発電しかありません。ただ、どんなに頑張っても原子力で確保できるのは200テラワットアワーだと思います。そして水素やアンモニアの輸入については、水素に関する国の計画を完全に実現しても100テラワットアワーです。CCS(二酸化炭素地下貯留)の技術開発も重要ですが量的には知れています。

 原子力や水素・アンモニアの輸入を総動員しても、必要な電力量にはまったく足りません。天然ガスを活用しようとしても、おそらくこの時代には価格が今の10倍になっていてもおかしくありません。

 世界が脱炭素を進める中、日本は遅れていますから、天然ガスを使用する際にペナルティ的な価格になっている可能性が高いのです。

 こうしたことを考えると、先程お話した都市鉱山を再エネ、国内の再エネで循環させるというシステムを構築しなければ、日本はもたないということです。

 ─ 日本最大手の鉄鋼メーカー・日本製鉄はアメリカのUSスチール買収を打ち出しました。これをどう見ますか。

 小宮山 日本製鉄は国内市場の先行きが厳しい中、高炉の閉鎖など合理化を進めています。一方、USスチールは7割以上の鉄を電炉で生み出している会社です。その技術を買おうという狙いが1つあると思います。

 そしてアメリカの鉄は、まだ飽和していません。国民1人あたり10トンの鉄が使われると飽和しているのですが、アメリカはそこまで行っておらず、まだ成長の余地があるんです。日本製鉄はそこにチャンスを見出したと。ビジネスとしては正しい選択だと思います。

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