2024-05-09

小宮山宏・三菱総合研究所理事長「成長している北欧の国には危機感がある。日本も高齢化、環境、雇用の観点で新たな社会像を」

小宮山宏・三菱総合研究所理事長

混沌の中、成長を続ける北欧について「スウェーデンやアイスランドの人達に『なぜ成長のための取り組みができているのか』と問うと『小さい国なので、常に危機感がある』という答えが返ってきた」と小宮山氏。今、世界が分断、分裂し、先行き不透明感が強まる中、これからの社会像をどう描いていくか。「東京一極集中が進むと、地方が立ち行かなくなる」として小宮山氏は新しい産業の創出が大事と強調。再生可能エネルギー、都市鉱山、バイオマスの成長分の活用で資源・エネルギーの「自給」が可能と訴える。

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アメリカの弱体化で世界の先行きが不透明に

 ─ 今、世界全体が先行き不透明感に包まれています。国際政治、地政学の行方も混沌としていますが、現状をどう見ていますか。

 小宮山 先行きについては懸念しています。一言で言えばアメリカが弱体化し、国内に対しても余裕がなくなっています。

 歴史的経緯で言えば、第1次世界大戦後に国際連盟ができ、それでは不十分だということで第2次大戦後に国際連合をつくり、IMF(国際通貨基金)などの世界の仕組みづくりを主導してきたのがアメリカです。

 しかし、これらの仕組みは、最後はアメリカの軍事力、経済力で担保されていた面がありました。今はその担保がなくなってしまったために、世界がこれからどうするか?ということになっています。

 ─ 2024年11月のアメリカ大統領選の行方を世界が注視しています。

 小宮山 ジョー・バイデン氏が再選されたとしても、これから世界がどうなるという意味で大変だと思います。ドナルド・トランプ氏は大統領在任時を見ても、最近の発言を見ても、やはり「アメリカファースト」で、ほとんど国内のことしか考えていません。世界に対する意識がないわけです。

 一方、欧州や、日本の一部は世界に対する意識を強く持っていると思いますが、残念ながら「力」がありません。警察力に相当する軍隊の力が弱い。金で牛耳ろうにも不足しています。

 どの国も国内の社会保障を維持する力がなくなってきていますが、格差が開いているからです。全体の成長が止まっている中で資本主義体制をとっていますから、格差が開くわけです。

 格差が開くと貧しい人の不満が溜まってくるわけですが、その状況を改善するのは社会保障しかありません。しかし今は、その社会保障を維持する力がないのです。その中でもスウェーデンなどの北欧の国々はうまくいっています。

 ─ この要因をどう分析していますか。

 小宮山 彼らは極めて長い時間をかけてソーシャルデモクラシー、社会民主主義的な国をつくってきました。70%近く税金を払うけれどもリターンがあり、比較的格差が小さい国となったわけです。

 ただ、北欧の人達と話していると、10年ほど前までは安定していたそうですが、今は人口の1%ほどの移民が入ってきている。国籍と関係なく、スウェーデンに在住している人には同じ社会保障を与えるという形でしたが、維持が難しくなっている。

 アメリカはこれまで移民を大歓迎するというスタンスで来ました。今のアメリカを支えているのも移民です。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は移民の末裔ですし、テスラ創業者のイーロン・マスク氏にしても南アフリカからの移民です。

 アメリカとして移民否定はあり得ないわけですが、束で入って来られると、その生活を賄う能力は、今のアメリカにはありません。

 アジアを見ても、中国の出生率は日本を下回りましたし、韓国の少子化にも歯止めはかかっていません。

 特に韓国は首都・ソウルへの集中が激しく、若者は皆、電機大手のサムスンに入りたがっている。必死で受験勉強を勝ち抜き、いい大学を出てもサムスンに入社できるのは、ほんの一握りです。私はこれらの国々への解決策を持ちません。

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