信金のコンテストで3賞を独占
─ 小さいが故にできる。
岡本 そうです。本学はそこをウリにしています。なぜ先人がわざと小さい大学という選択肢をとったのか。おそらく様々な理由で大きな大学にできなかったという背景もあったと思うのですが、いま考えてみると、実は先人はこのことを分かっていて、あえて小さな大学であることを選び、横浜美術大学の教育をやりたかったのかもしれません。
─ 吉田松陰の松下村塾もそうですよね。
岡本 おっしゃる通りです。専門性ばかりを追求することは、ある意味では大学の手抜きとも言えてしまうのではないでしょうか。真に人を育てるということとは違うわけですからね。専門的な領域だけでなく、社会一般を幅広く見て、全体感を持った行動ができなければなりません。本学ではそれを部活などで補うのではなく、カリキュラムに落とし込んでいるのです。
その点、本学は人の役に立っていく人材を養成しています。特に美術系大学の学生は忍耐力が抜群にあります。美術とは延々と続ける作業であるからです。絵画にしても延々と自分との対話を続けて描き続けるわけですからね。それは本学に限らず、美術系大学の特色であり、大きな財産だと思いますね。
─ 社会に役立っている事例も出てきているのですか。
岡本 はい。例えば、東京オリンピックの開催が決まったとき、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部が文化芸術部門のプログラム「beyond2020」の認証ロゴマークを公募しました。内閣官房は全国の芸術系56大学から公募したのですが、その中で本学の学生が最優秀賞を受賞し、文化庁の後援事業などに使われています。
受賞した学生は受賞できた理由に「大学のカリキュラムが良かった。いろいろなことをやってきているので、普段なら勉強することのないニッチな部分の知識も埋めることができた」と言ってくれました。専門の勉強を続ければ、その分野でどんどん尖っていくのでしょうが、それ以外の領域の隙間は埋まりません。今はそういった隙間を埋める学生が必要なのでしょう。
─ 産業界でも〝つなぐ〟という発想が求められていますが、社会全体がそうですね。
岡本 そうですね。美大に進学してくる学生ですから、芸術家になりたい学生が多いのは事実です。しかし、芸術家になれる学生は多くはありません。ただ、芸術家になれなくても東京五輪の事例のように、才能を開花させることはできます。
昨年11月に東京ビッグサイトで開催された信用金庫主催のイベント「よい仕事おこしフェア」のPRポスター デザインコンテストにおいても、本学の学生はグランプリと準グランプリ、特別賞の3賞を独占受賞しました。本学の学生による商業面での活躍は、本学が目指している領域でもあります。
規模は大きくしない!
─ 商業面で強さを発揮できる脱専門性の領域ということですね。
岡本 商業デザインですね。この領域では、自分ではなくてクライアントが何を欲しているかを汲み取る必要があります。クライアントが言葉にしているものを絵で表現したりするわけです。信金のコンテストでも募集要項に書かれたクライアントが求めている内容を汲み取って、それをポスターとして表現することができたのです。
─ 全学生のうち男女の比率はどれくらいですか。
岡本 女性が6~7割を占めていますが、男性を何としても増やすということはしません。無理はしないことが大事です。もともと女子大から出発しているわけですからね。
─ 少人数教育というのが1つのポリシーですか。
岡本 ええ。決して大学を大きくすることはありません。もちろん、経営の面で見れば学生数が多いわけではないので、非常に苦しいことは事実です。今後は少子高齢化でもっと苦しくなるでしょう。
だからこそ、少人数をキープしつつ、お預かりしたすべての学生に小さな成功体験(満足感)を経験させてあげられる教育力をベースにして横浜美術大学のカリキュラムを回していきたいと思います。本学は量から質の転換を徹底していきます。
私は、あらゆることを量から質に転換することが少子化の中で大学が生き残ることにつながると思っています。そうすれば、教員にも時間がでますし、学生と接する時間も長くなりますからね。学生と向き合うことを真面目にやっている大学は生き残れるはずです。本学はそういった手本を示したいと思っています。