2021-05-07

三井住友トラストHD社長・高倉透の「信託深掘り」戦略 単身世帯向けの資産管理などで強み

高倉透・三井住友トラスト・ホールディングス社長



デジタル化推進に新会社を設立


 デジタル化には様々な観点がある。前述のようにイノベーションを生み出す、あるいは業務を効率化する上でも、今やデジタルの力は欠かせない。

 まずは主力業務である資産運用、資産管理の分野でデジタルを活用。従来は人手を介し、紙を使っていたような業務のプロセスを変えていく。その上で、新たなデジタル技術、発想で世の中に貢献できる商品、サービスを生み出すことを目指す。「事業の効率化は当然として、我々の得意分野で次元の変わるようなことをやっていきたい」

 様々な検討を進めているが、例えば契約者が亡くなった後の相続の手続きは煩雑なもの。これに対してデジタルプラットフォームを構築し、他の銀行などとも共同で運用できるようになれば、顧客の利便性は高まる。

 また、これまでデジタル化に向けては社内のデジタル企画部で取り組んできたが、4月1日にはデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を加速させるために、デジタル戦略子会社「Trust Garage」を設立した。

 社内部署から子会社として独立させた背景には「別会社にして、デジタルの技術や知見を持つ方々は銀行とは違うスタイルで取り組んでもらう方がいい」(高倉氏)という考えがある。

 前述のTBFのように、金融業界に限らず幅広い業界からデジタル人材を集めていく。「1人で考えるよりもタッグを組んだり、コラボレーションをした方が違ったアイデアが出て、思わぬ展開が起こりやすい」ため、外部企業との連携を含めて新規事業を生み出すことを目指す。

 社名に「Garage」を入れたのは、米アップルやグーグル、アマゾンなど世界を席巻するハイテク企業も、創業者の自宅にあった「ガレージ」からスタートしたことにちなみ、変革の始まり、起点となる会社にしたいという思いがあった。

 メガバンクが設立しているデジタル子会社がキャッシュレスなど決済に重心を置いているのに対し、三井住友トラストはそれに加えて、個人ならば相続などの課題、法人ならばバランスシート(貸借対照表)改革など、専業信託銀行ならではの商品・サービスのDXを意識し、事業を強化していく。

指名委員会が選んだ初めての社長


 高倉氏は1962年3月大阪府生まれ。84年東京大学法学部卒業後、住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入行。統合推進部長として住友信託と中央三井トラスト・ホールディングスの統合に携わった経験を持つ。

 今回、三井住友トラストHDとしては初めて、指名委員会での指名を受けて就任する社長になる。両社は11年の統合後、旧住友信託と旧中央三井トラストとでトップを分け合う「たすき掛け」人事を進めてきたが、今回は三井住友信託銀行社長に旧住友信託出身の大山一也氏が就き、両社とも住友信託出身者がトップを務めることになった。

「4年前に指名委員会等設置会社に移行し、指名委員会でサクセッションプラン(後継者育成計画)を議論し、取締役の選考などを進めてきた。時代や会社の仕組みは完全に変わった。社内の内輪の論理や度が過ぎたことは通じない時代」(高倉氏)

 プラットフォーマーが金融に参入するなど外部環境が大きく変わる中、もはや〝内〟にエネルギーを向ける時代ではなくなっていることを示している。

 大学卒業時、希望業界を限定せずに就職活動をしていたが、1つだけ「フィーリング」の合う会社に行きたいと思っていたという。その中で信託を知り、仕事内容や、出会った先輩と対話する中で住友信託に魅力を感じて入社したという経緯。

 高倉氏が忘れられない経験は95年の阪神・淡路大震災。人事部に所属して東京で仕事をしていたが、大阪府内は電話をしてもつながらない。しかし東京からは電話がつながったので、東京の人事部が安否確認を行った。ただ、3日間かけても確認できない人が100人以上いた。その間、無事だった人からの問い合わせなども入り続ける。

 そこで実感したのは「その場で判断をしなければならない」ということ。そこで先に伸ばしたら、次にいつ連絡がつながるかもわからないし、誰かに相談する時間もない。以降、いつでも判断できるように前もって、最悪のケースも頭に入れながら仕事をする習慣が身についた。

 激しい変化の中、専業信託銀行として生き残る上でも、様々な判断が求められることになる。

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