2021-06-30

「モノになるか分からなくてもニーズがあればやる!」透析装置トップ・日機装のものづくり進化論

甲斐敏彦・日機装社長



航空機用の「カスケード」で世界シェアトップになった背景

 甲斐氏は「当社には他が手掛けにくい領域に挑む風土・歴史がある。モノになるかどうか分からなくても、お客様からのニーズがあればやる」と日機装が持つものづくりの思想を語る。

 事例で言えば、同社が世界で9割以上のシェアを占める「カスケード」がある。航空機のジェットエンジンに使う逆噴射装置用の補助ブレーキの役割を担うものだ。カスケードはもともと金属製だったが、これを世界で先駆けて炭素繊維での製品化に成功したのが日機装だった。

 米ボーイングの中型機「ボーイング787」が登場して以降、急速に炭素繊維の需要が伸び、炭素繊維を使ったカスケードを求める航空機メーカーなどの声が高まったことが背景にある。

 前出の透析装置も1953年のポンプ製造から培ってきた「(流体の静止・運動状態などを研究する)流体力学を応用させた技術になる」(同)。技術を持っていた日機装に東京大学医学部の教授から人工心臓の試作を依頼されたことが始まりだ。

 そして、透析装置を含む医療部門は今では同社の稼ぎ頭になっている。2021年12月期の売上高は1840億円、営業利益105億円と増収増益を見込んでおり、医療部門の売上高は約845億円と前年同期比26・2%増。営業利益は107億円と工業部門の落ち込みを補う。

 日機装はものづくりの舞台をポンプ、医療機器、航空機部品へと多角化し、新たに感染対策という分野に踏み込む。甲斐氏は深紫外線LEDの安定供給体制に課題があるという認識を示しつつも、「万が一が許されない商品が多いため、これまで培ってきた安全・安心を強みにしていく」と強調する。

 コロナで感染対策が新たなキーワードとなる中、持てる資産の活用で次なる成長を図るという日機装のものづくりビジネスと言える。


航空機や鉄道の座席への応用も視野に入れている

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