2021-08-27

帝国ホテル社長が語る”コロナ禍での一大投資”



タワー館の不動産賃貸事業

 ─ どのような人からの引き合いが多いのですか。

 定保 例えば、地方のオーナー企業の経営者の方が東京での事務所代わりに使うケースもあれば、日本を代表する企業の役員の皆さんが交代で利用するケースなどがあります。また、カップルやご夫婦で1カ月間をゆっくり過ごすケースもあります。

 近くに「帝国劇場」や「日生劇場」「東京宝塚劇場」などがありますから、かつては昭和の大女優さんなどが我々のホテルに長期滞在するケースもありました。目的はどうであれ、もともと需要はあったということになります。そこで、新たに「帝国ホテルに住まう」「銀座に住まう」というコンセプトを打ち出しました。やはりロケーションが生きましたね。

 ─ 非常時でありながら新たな取り組みができるのも、無借金という強固な財務体質が背景にあったといえますね。

 定保 規模は小さいですが、1983年に日本初のホテルと賃貸オフィス、商業施設の複合ビルとして建ったタワー館の存在が大きいです。当時の経営陣に感謝しなければならないと思いますね。ここで不動産賃貸事業を始めたことは大きいです。額はそれほど大きくないにせよ、毎年しっかり利益を確保できていますからね。これは今後に生かしていきたいと思います。

 ─ ホテルとは何かという原点に返る好機になりますね。

 定保 約130年の歴史を振り返ると、やはり去年から今年にかけて、創業者である渋沢栄一翁の遺した教え、言葉を何回も読み返しました。自分の決断がこれで良いのかと。渋沢栄一翁の信念は『論語と算盤』に代表される「社会のため」という公益性です。この公益性と利益のバランスが大事なわけです。

 そもそも帝国ホテルは明治政府の要請を受け、内外の賓客をお迎えするために恥ずかしくない西洋式のホテルをつくることが目的でした。まさに「日本の迎賓館」という位置付けです。

 ですから、もともと「国のために」「内外の大事なお客様のために」という想いが理念として受け継がれているわけです。そのために接客技術の向上を図り、カクテルや料理の腕前をどう上げていこうかと先達が取り組んできてくれました。

 それが今日の帝国ホテルのブランドや評価につながっており、会員をはじめとした多くのお客様に永らくご愛顧いただいているおかげで業績が成り立っているわけです。それによって株主や従業員に還元ができ、しっかりと投資もでき、ブランドが磨かれる。その積み重ねが信用や安心感につながっていき、結果として再び売り上げと利益につながっていく。このサイクルが大事だと思っています。

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