2022-02-07

日本商工会議所会頭・三村明夫氏が訴える「日本再生に必要なこと」

三村明夫・日本商工会議所会頭



中小企業の生産性向上が日本のために不可欠


 ─ 潜在成長率を高めるには生産性向上に集中することが必要だということですね。

 三村 そうです。そのために必要なことは2つあります。1つはデジタル化の推進です。もう1つは人材投資です。

 これまで日本は「人」に投資をしてきました。しかしこの10年間、他国に比べて人材投資が減っています。「オン・ザ・ジョブトレーニング」は日本企業の特徴ですが、今はそれだけでは対応が難しくなっています。

 おそらく、人口が減少する中で人材の流動性を高めないと日本はもちません。そしてデジタル化が進むということは、ある分野では不要な人が出て、別な分野では必要な人が出るという形で分かれてくるということです。デジタル化の推進と人材の流動性を高めるにはどうしたらいいか、我々は真剣に議論すべきです。

 ─ 生き方・働き方も変革の時に入ったと。ところで日本企業の99%は中小企業ですが、一部には生産性の低い企業は市場から退出せよという急進的な議論もあります。

 三村 1つはっきりしていることは、生産性を引き上げなければ日本の将来はないということです。一方で、中小企業は雇用の7割を担っていますから、中小企業の生産性を引き上げなければ、日本全体の生産性は絶対に上がらないのです。

「中小企業は弱い存在だから助けないといけない」といった発想ではなく、日本全体の生産性を引き上げるためにも中小企業の生産性向上は絶対に必要で、そのために何をしたらいいのか、という観点で問題を捉えることが必要ではないでしょうか。

CO2削減に向けた「コスト」を考える


 ─ ところで地政学的には引き続き米中対立が大きなリスクです。日本の立ち位置をどう考えますか。

 三村 日本は、例えばTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)などでリーダーシップを発揮してきました。このように日本が1つのイニシアティブを持ちながら様々な問題に対応することが重要ですし、東南アジア諸国はそれを強く望ん
でいると思います。

 東南アジア諸国にとって、アメリカと中国のどちらかに味方しなければいけないと迫られることは避けたい。そうした状況下で、日本が一定の役割を果たすことが必要だと思います。

 ─ 脱炭素や頻発する自然災害も踏まえて、日本はどのようにエネルギーを確保するか。

 三村 今、これだけの自然災害が起こり、CO2を始めとする物質が地球温暖化をもたらしていることについては、疑いを持てなくなってきました。

 したがって、こうした物質をコントロールすることが人類の幸せにつながるということについては反論できなくなっています。日本を含めて誰もが努力しなければいけないということです。

 政府は、21年に、2030年度の温室効果ガスの排出量を13年度と比べて46%削減するという目標を打ち出しました。そして、この削減目標を達成するために、21年10月に「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されています。

 エネルギー政策の基本は「S+3E」です。即ち、安全性を大前提とし、安定供給、経済効率性、環境適合を適度にバランスさせなければなりません。

 ところが先日発表されたエネルギーミックスではコストのことを考えずに、温室効果ガス46%削減を達成する目標ありきで作成されたものです。

 ─ これまで重要視されていたバランスを考えたものではなかったと。

 三村 再生エネルギーの比率を大幅に増やすことで、例えば各個人、家庭はどの程度のコスト負担になるか、電気料金を始めとするエネルギーコストが高まれば産業界は国際競争力を保つことができるのか。こうした課題をまず洗い出して、丁寧に説明することが必要です。

 今までのCO2削減の議論の中では、多くの人にとってコストは他人事でした。しかし、そんなことはあり得ません。必ず社会全体としてのコスト負担があるわけで、それをわかった上で「やろうじゃないか」ということであれば本物になっていくと思います。我々にも覚悟が必要だということです。

 ─ 国民全体の本気度が問われますね。

 三村 一方、これだけ高いエネルギーコストであれば、日本で電気を使う産業は成り立たないということで生産拠点が海外に流出してしまうということは十分にあり得ます。これは日本にとって好ましくありません。

 それを避けるためには、例えば原子力発電の位置づけを明確にしたうえで、原発を最大限活用することが必要です。

 さらには、省エネ技術、あるいはCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)の技術開発に一層注力していくことが求められます。

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