2022-02-09

【社会の仕組みを変える「デジタル通貨」】中国は『デジタル人民元』、日本で進む民間主導の『DCJPY』とは?

時田一広・ディーカレットホールディングス社長

電気に”色”を付ける

「太陽光発電を10年間買い取るFIT制度が終わるとP2P取引(発電側と需要側を直接つなぐ電力取引)の選択肢が生まれるため、その実証実験を2018年から始めました。太陽光は再生可能エネルギーなので『環境価値』もあわせて取引する実証でした」(石田文章・関西電力技術研究所先進技術研究室エネルギービジネス主席研究員)

 電力の対価の支払いもデジタルで行おうと電子マネー等の活用も検証したが「手数料などのコストや手間がかかり過ぎる」という課題が発生。そこで『デジタル通貨フォーラム』に参加。DCJPYを使った検証を進めている。

 カーボンニュートラルの時代に向け、企業は再生エネルギーの電源確保を進め、家庭用の少量の電力でも積極的に購入するようになっている。

 再エネ需要が増えれば「『電気』の価値は同じでも『環境価値』が上がり、その分だけ買取価格が上がる」こともある。再エネの奪い合いが起きる中、家庭で発電された電力を企業が購入するには「何もしなくても電気や環境価値が売れて、お金が入っていく仕組み」が求められる。その仕組みづくりを進めているというわけだ。

 具体的には、「電気」と「環境価値」を〝売り手〟から〝買い手〟に渡す際、対価の支払いが発生する。その〝指図〟を共通領域のプラットフォームで実行すると、売り手と買い手の口座間でデジタル通貨が移動する。

 口座は金融機関の口座に紐づいているため「お客様はデジタル通貨ということをさほど意識することなく対価が支払われる」。

 実証実験にはローソンや阪急阪神HDなど小売業も入り、受け取ったデジタル通貨を使って決済するところまで検証する。

 さらに、「電気だけでなく、環境価値などのデータを組み込むことで、電気に〝色〟が付き、クリーンな電気ということを証明できる。そうなると、より価値あるビジネスにもしていける」(石田氏)と新たなビジネスの可能性にも期待する。

『デジタル通貨フォーラム』では「電力取引」の他、「小売り・流通」「行政事務」など10の分科会で新たな仕組みを検証している。

 デジタル通貨の可能性は広い。

 例えば、「自動支払い」機能を活用すれば、卸売業者から小売業者に商品が渡った瞬間、位置情報を活用して自動で支払いを行ったり、複数の交通機関を使った移動も自動で決済できる。

 こうした価値は、新たな時代が必要とするものでもある。

「サプライチェーンのクリーンさをどう証明し、サプライチェーンをどう管理するか。そのためにはマネーの機能をより高度にし、世界の課題解決にマネーの機能を活用していかなければならない。情報処理ツールとしてのマネーが、より高度な機能を果たすことが求められている。1社が発行したマネーでは汎用性は満たせない。民間の力で誰もが信用できる〝信用のアンカー〟が必要。そこで、銀行の新たな役割が求められる。新たなデータ、マネーに、どのような情報処理と機能を載せるか。業種・産業横断的なプラットフォームの重要性が再認識されると同時に、銀行が果たすべき新たな役割も強く実感する」とフォーラム座長の山岡氏は語る。

 社会の仕組みを大きく変えるインフラとして期待がかかる『DCJPY』だが、ディーカレットDCPが関与するきっかけはどこにあったのか─。

「インターネットの中にブロックチェーンがあって、そこで価値の移転が記録されていく。この技術はデジタル社会のコアな技術になる可能性がある。今は、メールは送れるけれどお金は送れない。そこで、安全に価値交換できるようなプラットフォームを作れないかということが、設立の背景にあります。そうなると、非常に大きな社会インフラになり、モノの移動だけでなく、お金の移転も伴う金融インフラになる可能性もある。そこで、メガバンクさんやJR東日本さんなど社会インフラを担っておられる会社にご出資いただいて設立したのがディーカレットです」(時田氏)

 設立後はまず、様々な技術が生まれる暗号資産事業に着手。そして、デジタル通貨の構想を練っていった。ディーカレットDCPが資金移動業のライセンスを取ってデジタル通貨を発行する方法もあったが、それではインフラにならないと、2020年6月から『デジタル通貨勉強会』を開催、官民横断で議論を重ね、同年12月『デジタル通貨フォーラム』に発展させて参画企業を増やしていった。

 こだわったのは「できるだけ制限の少ない方法」で「すべての人が同じものを使える相互運用性」を持ち、「安心して使える」デジタル通貨にすること。

 そうして生まれたのが、法人間の多額な取引もできる「銀行が発行するデジタル通貨」で、法制度が改定されても構造が担保される「二層構造」にすること。二層構造にすれば「付加価値領域で様々なプログラムが実装できる」からだ。

 その中で、ディーカレットDCPはプラットフォームがきちんと機能するよう運営の役割を担う。

 CBDCの議論の中心は法制度や技術、仕組みの部分だが、民間主導で進む『DCJPY』は「誰がどう使うのか。インターネットの中で価値を交換したら、どんな世界が作れるのか」ユースケースを中心に議論を進めている。そうして実績を積み上げ、インフラとしての市民権を獲得していく考えだ。

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