インターネット広告、ゲーム、メディアで過去最高益を更新「大きな成長を遂げるために必要なパーツがメディア事業。『ABEMA』は10年かかりで育成していく」サイバーエージェント社長 藤田 晋 Fujita Susumu「ほぼ想定どおりの地盤を固めながら成長を遂げているという状況です」─。先行投資の続くインターネットテレビ事業『ABEMA』の現状について、こう語る藤田晋氏。ゲームやドラマなどエンターテイメント市場が国境を越えて広がる中、世界での成長も見据えた経営が求められている。国内で成長してきた同社は、今後、どんな成長を目指しているのか─。動画配信『ABEMA』は想定どおりに成長 ─ コロナ禍で企業も変化を促されました。改めて、コロナ禍の影響から聞かせて下さい。
藤田 コロナ禍という意味では、プラス面とマイナス面、両方ありました。プラス面は、世の中のデジタルシフトが一気に進み、巣ごもり需要などが生まれたことです。一方のマイナス面は、先行き不透明ということで広告主の出稿控えが生じ、広告事業が少しマイナスになったことです。プラス、マイナス、トータルで見ると、われわれとしては、少しポジティブに働いたかなという感じです。
─ 社会のデジタル化の進展は大きな変化でしたね。
藤田 そうですね。例えば、ハンコやファックスの廃止などがなかなか進まず、日本全体のデジタル化も遅れていましたが、リモートワークの推奨によって、意識が変わる大きなきっかけになったと思います。
─ 藤田さんは1998年に会社を設立して、もうすぐ25年になりますが、振り返っていかがですか?
藤田 同じ時期に設立されたGoogle やFacebook(現Meta)は世界的な大企業になっていますので、そこに対するコンプレックスのようなものはあります。
ただ、世界規模の企業になるのは、そう簡単なことではないので、やれる範囲で結果を出してきたという感じです。
─ 現在の事業は「メディア事業」「インターネット広告事業」「ゲーム事業」の3本柱ですが、改めて各々の事業ついて聞かせて下さい。
藤田 はい。インターネット広告事業は市場の拡大とともに長期にわたって順調に成長を遂げている事業で、十分な利益を出しています。今も右肩上がりの成長が続いています。
─ ネット広告が最大の広告メディアになりましたね。
藤田 ええ。広告事業の形はいろいろ変えていますが、みんなが接するメディアがどんどんネットになっているので、自然な流れかなとは思っています。
─ インターネットテレビ『ABEMA』はサービスを開始して6年目になります。
藤田 テレビの未来を創る、テレビの再発明を目指して取り組んでいる事業です。
われわれの戦略としては、広告事業が連続性のある成長をする一方、ゲーム事業はどうしても浮き沈みが出てしまう。
その中で、大きな収益を上げられる、世界的に成功しやすい事業というのはメディア事業だと思っています。グーグルやフェイスブックもそうですし、日本でもヤフーや楽天がそうです。
そこで、われわれとしては大きな成長を遂げるための必要なパーツとしてメディア事業があり、「これは」というものがあれば時間がかかっても、大きく投資をしてやり切るという考え方です。ブログサービスの『Ameba』もそういう考えで取り組んできたものです。
『ABEMA』はもうすぐ6周年になりますが、10年がかりで立ち上げようと始めたものなので、そういう意味では半分が経過して、ほぼ想定どおりの地盤を固めながら成長を遂げているという状況です。
─ 若い世代はネットメディアに関心がありますが、熟年世代へのアプローチはどう進めていますか?
藤田 実は、将棋、麻雀、格闘技、相撲などの専門チャンネルは、中年以降の男性がもっとも属性が近いんです。
それから、ゴルフ中継もテレビのような〝枠〟が存在しないので、『ABEMA』がやれば初日から全試合をフルで放送できます。
『ABEMA』で将棋が人気になったのも、朝から晩までずっと中継できるからなんですね。NHKも将棋の対局を放送していますが、全対局を放送することはできません。
そうしたネットの特性を活かして、11月にはサッカーワールドカップのカタール大会の全64試合を無料で中継します。
▶【サイバーエージェント・藤田晋】の事業観『何が起きてもの気持ちで、しかし思い詰めずに』 ─ 今後も投資を続けるということですね。『ABEMA』はテレビ朝日と共同で手掛けていますが、経営者として、テレビ朝日会長兼社長の早河洋さんをどう見ておられますか?
藤田 もともとコンテンツに強い方なので的確なアドバイスをいただきますし、われわれに任せる上でも理解があります。
テレビの将来を危惧する方は多いですが、逃げ切り世代とも言われ、本気で何とかしようしている人は少ないと思います。
早河さんは本当に何とかしようとしている責任感のある経営者だと思います。でなければ、ネット企業と組んで事業をやろうとはしないと思います。