2022-06-01

【政界】安定政権か、それとも衰退を辿るのか?7月の参院選で分水嶺を迎える岸田首相

イラスト・山田紳



慎重だった理由

 自民党が慎重だったのは、もうひとつ理由があった。大型国政選挙の前に補正予算案を審議することは「過去の例をみても良い結果になった試しがない」(自民党関係者)からだ。

 実際、これまで首相退陣や政権交代につながった例が多い。1993年の宮沢喜一政権は6月に内閣不信任案が可決され衆院解散に踏み切るが、自民党は過半数割れし、政権交代した。98年の橋本龍太郎政権では参院選で敗北し、首相退陣に追い込まれた。さらに2009年の麻生太郎政権でも衆院選で敗れ、政権交代を許している。

 自民党の参院側からは「このまま波風を立てずに参院選まで行ってほしかった。何が起きるか不安だ」といった声があがる。自公間のしこりが残るだけに、もはや「守り」に徹しているのでは参院選を乗り切る展望が開けそうにない。

 それでも、岸田にとって好材料もある。今後、各国首脳との直接会談や国際会議が多く予定されているのだ。

 ウクライナ侵略を続けるロシアに対し、主要7カ国(G7)と連携しながら厳しい態度を示してきたことは、世論の支持を得ている。仮に国会論戦で野党に厳しく追及され、支持率が下落傾向になったとしても、外交成果で世論の好感を取り戻すことができるとされる。

「帰国後も外交日程が目白押しだ。ウクライナ危機を乗り越え、平和秩序、自由と民主主義を守り抜く。日本が国際社会の中で『日本ならでは』の最大限の貢献をしていく。そうした日本国民の強い決意を背景に、首相として『新時代リアリズム外交』を本格的に動かしていく」

 大型連休中に東南アジア、欧州の6カ国を歴訪した岸田は5月5日、最後の訪問国となったイギリスで記者会見し、そう訴えた。

 不透明な国際情勢を踏まえ「日米同盟をさらなる高みに引き上げていく。また、『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けて日米豪印の首脳会談やASEAN(東南アジア諸国連合)各首脳との緊密な対面外交も積極的に進めていく」と語った。

 岸田は帰国後の5月11日、来日したフィンランドのマリン首相と会談。12日には欧州連合(EU)のミシェル欧州理事会議長、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と日EU定期首脳協議を行った。協議の対面開催は3年ぶり。

 岸田は「日本にとって基本的価値を共有するEUは国際社会の共通の課題に共に取り組む重要なパートナーだ」と強調。日本とEUが協調し、強力な対ロ制裁とウクライナ支援の強化で連携していくことなどを確認した。経済安全保障やエネルギー分野、気候変動対策など様々な分野で協力していくことでも合意した。

 その後も初来日する米国のバイデン大統領との日米首脳会談や、岸田が主催する日米豪印の枠組み「クアッド」の首脳会合などの外交日程をこなす。

 6月に入ってからも、シンガポールで10日から開かれるアジア安全保障会議に出席する予定だ。同会議は防衛相が出席することが多いが、岸田自身が出席し、ウクライナ侵略を続けるロシアに対抗するための結束や、東・南シナ海への進出を活発化させる中国に対する連携を呼びかける構えだ。さらに、参院選告示後の26~28日はドイツ南部エルマウで開催されるG7首脳会議に出席する。

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