企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか
─ これまでの日本経済において、企業の「稼ぐ力」が弱いというのが大きな課題でした。この解決に必要なことは?
清田 おっしゃるように、日本企業の稼ぐ力が弱いこともあり、EPS(1株当たり純利益)が非常に低かった。すなわち、稼ぐ力であるROE(自己資本利益率)が1株当たりの平均で4~5%程度だったわけです。
日本のROEが4~5%を長く続けてきた一方で、欧米はマーケット平均で10%から15%が当たり前という状況でした。安倍政権はそこに着目して、アベノミクスで企業の稼ぐ力を引き上げようとしました。
その時の考え方は、日本企業の経営は非常に非効率的だと。すなわち、日本企業は持っている資本をいかに有効活用するかという観点が抜け落ちていると見たのです。
─ それがROEが低水準になっている要因だと。
清田 ええ。日本企業が預かった資本を4~5%のリターンでしか運用できていないのに対し、欧米は2桁です。そこで、これを高めることが必要だということでした。ROEが5%の日本企業が15%に上がれば、日経平均は8000円から2万4000円と3倍になるはずだという考え方です。
その考え方に基づいて14年に公表されたのが、一橋大学の伊藤邦雄氏が座長としてまとめた「伊藤レポート」です。この中では株主が期待するROEは最低8%だと書かれていました。
その後、「伊藤レポート」の方向性でガバナンス改革が行われるようになりました。しかも、コーポレートガバナンスというものは、経営者に対して意識改革を求めていました。やはり企業経営は、株主から預かった資本をいかに効率的に事業で運用してリターンを上げ、そのリターンから様々な社会とのコミットメントを果たした上で、最後に残ったものがROEのいう全体の純利益だと。
─ それまでの日本企業にはなかなか根付いていない考え方でしたね。
清田 そうですね。企業の稼ぐ力を上げるためには収益力を高めなければなりませんし、そのためには資本の質を高めなければなりません。資本生産性、つまり資本にはコストがかかっているのだという発想が、それまでの日本の経営者にはあまりありませんでした。
これは私がいつも申し上げていることですが、企業は配当や自社株買いで株主に還元する前に社会、顧客、従業員に対するコミットメントを果たし、取引先との契約も全て履行し、それでも残った利益が純利益であり、そこから株主に配当や自社株買いで還元することが必要です。
この考え方であるがゆえに、株主と経営者というのは、残った純利益の中からどれだけを投資に、どれだけを株主還元に回すかということも含めて、対話する必要があります。
株主が何を望み、求めているのか。経営にどうして欲しいのか。「配当よりも成長をして欲しい」という株主が多くいる会社は成長を目指す必要があるでしょうし、経営が安定している電力やガスなどのように、成長よりも安定的な配当をお願いしたいという場合には、どういった経営がいいのかということについて、株主との建設的な対話を徹底することです。
そうして経営者は自分の経営を、できる限りガバナンスが利いたものにする。ですから株主の側も経営者に対して、自分達の望みを常時伝えていくことが大事になります。
─ 企業と株主のコミュニケーションが大事になってきますね。
清田 我々も、そうしたお互いのコミュニケーションが非常に重要になるということで、14年に「スチュワードシップ・コード」、15年に「コーポレートガバナンス・コード」を導入しました。スチュワードシップ・コードは投資家、コーポレートガバナンス・コードは経営者に対する行動原理をつくり、それに基づいて皆さんに投資や経営を判断していただきたいという主旨でした。