2022-08-09

創業100年【旭化成新社長・工藤幸四郎】の信条「伝統は守るべからず、つくるべし」

旭化成社長 工藤幸四郎

全ての画像を見る


リスクをどれだけ取っていくか

「何かこれから新しいことに挑戦するためには、やはりリスクをどれだけ取っていくかということだと思うんです」
 当面、注力するのは2022年から2024年までの3年間の新中期経営計画。前回の中計では8700億円だった投資計画を1兆円に引き上げる考え。
「8700億円から1兆円に増やしても、われわれの財務基盤はまだ十分にいけるだろうと。そういう範疇で考えた中期計画であり、ある意味でクールな、冷静な判断があるんです。それに加えて、われわれは将来に向けて新しい領域に出ていきたいと。例えば(リチウムイオン電池関連の)セパレーターもまだまだ拡充したい。あるいは水素事業についても研究開発をしっかり進めていきたい」

 ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)など社会課題解決のために自分たちが取り組むべき課題やテーマは多いということ。
 人の移動や荷物の運搬に欠かせない車にしても、従来の内燃機関(エンジン)を使った車から、水素を使う燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)に移行していく。
 これらの電気製造の際に使う部材のセパレーターにしても、旭化成は先駆的に開発し続けてきている。

 水素社会に移行していくうえで、求められるのは〝グリーン水素〟。電気分解を活用したテクノロジーのさらなる開発である。
 同社はグリーン水素については、東日本大震災の被災地、福島県・浪江町で水素生産の社会実装を進めている。アルカリ水電解でグリーン水素を製造。この水素から電気を起こすという社会実装。

 成長のドライブと位置づけるヘルスケア領域については、M&A(企業の合併・買収)を中心にして拡大させていく方針。
「今、われわれは3領域を変えることが目的ではなくて、それぞれが成長すべきだと思っています。今のわたしの段階で、3領域が2領域になるとか、あるいは4領域にするという前提には立っていません。それぞれの領域がまだまだ成長できると確信しています」

 工藤氏は、この3領域の経営について、「まずは堅牢な形にし、健全な成長がしっかりできるようにしていきたい」と語る。

シナジー効果を!

 旭化成は先述のように、化学業界にあって、多角化に注力してきた会社。同社の『中興の祖』とされる宮崎輝(かがやき)氏(1909―1992)。昭和の高度成長期に、合繊や石油化学、さらには食品、アルコール事業と多角化を進めて同社の成長を図った。
 一時期、同社は東レ、帝人と共に〝合繊3社〟と評されたときもあった。

 こうした事業多角化に、口さがない向きは〝ダボハゼ経営〟、〝イモづる経営〟と評したが、宮崎氏は「根っこはみんなつながっている」と語ってきた。
 根っこはつながっている─。作物でいえば、土壌の上ではそれぞれ違う花や葉っぱに見えるかもしれないが、地下茎は同じだということ。

 宮崎氏は1961年(昭和36年)から1985年(昭和60年)までの24年間社長を務めた。そして1985年から会長となり、1992年(平成4年)に出張先で倒れるまで、仕事一本やりの人生を送った。
 それから30年が経つ。根っこは同じ地下茎から成長してきた各事業領域の連携はどうあるべきか。

 3領域経営はシナジー(相乗)効果は期待できるのか?
「われわれが考える領域については、極めてシナジーがあると思っています。これから先、世の中は不確実な時代ですので、これを乗り切るためにも、何より経営基盤が強いものでないといけない。強固なものでないと生き残れないということなんです」

 工藤氏は、コロナ禍に加えてウクライナ問題が起きる世の中にあって、経営の舵取りを担う立場になったことについて、次のように語る。
「大きな出来事や変化が起きて勝ち残れる、生き残れると。そういう体制づくりですね」

 そのためには、何が必要か?
「やはり人ですね。肝腎の人材の面を強くしておかないといけない。われわれには3領域あるわけですから、極めて人材の多様性が求められるし、さらに多様化していく。人材をどう活用するかというのは、企業の生命線だと」

〈編集部のオススメ記事〉>>【慶應義塾長 ・伊藤公平】の企業間、大学間提携の プラットフォームとして

本誌主幹 村田博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事