2022-08-09

創業100年【旭化成新社長・工藤幸四郎】の信条「伝統は守るべからず、つくるべし」

旭化成社長 工藤幸四郎

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外部の人材もスカウト

 世の中全体が大きく変動する中で、工藤氏はDX(デジタルトランスフォーメーション)と知的財産の2つをキーワードに経営変革を進めようとしている。
 DXも知財も、これを担うのは「人」であり、人という経営資源をどう活用していくかということ。

「人」の潜在力の掘り起こし、人材活用をどう進めるか─。
「われわれはキャリア採用と申していますけれども、外部の人材もわれわれが必要とする所で活用していきたい。それで、そこの所を埋めていくことをしていく。すごくインパクトがあるのは、従来、旭化成しか経験していない社員がほとんどなわけです。従って、社外からわれわれが必要とする人材に入ってもらうと、社内への波及効果が随分とあります。これは極めてインパクトが強いものだと思っています」

 具体的に、外部からのスカウト人事として、例えば『デジタル共創本部』の本部長も外部からのスカウト人事である。
 同本部長の久世和資氏は日本IBM出身。同社の東京基礎研究所長や執行役員最高技術責任者(CTO)を務めてきた人物。2020年7月、旭化成に入り、執行役員エグゼクティブフェローから出発し、常務執行役員兼デジタル共創本部長を経て、今年4月、専務兼デジタル共創本部長というポストに就いている。

「彼に来てもらった効果というのは、非常に大きなものがあります。社内の人間が発する言葉と、社外で1つのステータスを持ち、経験をしてきた人が発する言葉とでは、耳の傾け方が全然違うと思うんです。新しい事を実行に移すパワーにしても、その影響力は非常に大きなものがありますね。今のは経営層に近い人の話ですが、若手も同じようなことがあると思いますし、社内の人間に対する刺激が与えられると」

 外部からのスカウト人事の効用について、工藤氏はこう評価する。以前とくらべて、キャリア形成はより自由で、より多様化してきた。「はい、キャリアにもいろいろあって、旭化成を辞めていって、他社で働いて、また入って来る人もいます。まだ多くはありませんが、そういう出入りも始まっています」

『無形資産』の充実を!

 工藤氏が今、注力しているのが『無形資産』の充実、開拓である。
 無形資産とは〝物的な実態の存在しない資産〟のこと。わかりやすく言えば、特許や商標権、著作権などの知的財産(Intellectual Property)、従業員が持つ技術や能力、さらには企業文化や経営管理プロセスなどを含めたインフラストラクチャー資産のことを指す。
「無形資産はこれからの経営でのキーワードになってくると思います。われわれも先頃、DX銘柄に選定されました。2021年から2年連続で選定されたことになりますが、これも日本を代表する企業だということだと思いますし、それが実際、実質的にDXが改革の起爆剤になるような経営をやっていかなければと思います」

 工藤氏は、自分たちが手掛ける事業の付加価値を高めるために、DXと知的財産の2つを充実させていく方針を掲げる。
 知的財産の充実のために、経営企画部の中に『知財インテリジェンス室』を新設するなど、
経営中枢の仕事として取り組んでいく考えである。

「わたしどもは2017年頃から日本でも導入され始めている『IPランドスケープ』を事業評価の1つの手段として積極的に導入していますし、活動の中に取り入れています」
 I P ランドスケープ。Intellectual Property(知的財産)と景観・風景を意味するLandscape を組み合わせた造語で、知財情報解析を活用することによって、戦略的な知財経営を展開していこうというもの。
 日本でも2017年頃から、このIPランドスケープの活用が盛んになり始め、すでに2020年12月、トヨタ自動車やブリヂストン、旭化成などの大手企業の知財関係者が参加する『IPL推進協議会』が発足している。

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本誌主幹 村田博文

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