危機時に脆い日本をどう強化? ロシアによるウクライナ侵攻の影響で食料や資源・エネルギー価格が供給不足から高騰。戦争は人々の生活を困窮化。
日本も他の国々と同じように影響を受けているが、日本の場合はこの食料とエネルギーに関しては、自給率をどう向上させるか─。という長年の課題をもともと抱えている。
日本の食料の自給率は38%(カロリーベース)と他の国と比べて、ケタ外れに低い数字だ。ちなみにカナダは266%、豪州200%、米国132%と高く、欧州勢もフランスの125%を筆頭に、ドイツ86%、英国65%、イタリア60%という水準。
日本の食料自給率は1965年(昭和40年)頃は70%以上あった。その後、農業所得や農業人口の減少もあって、輸入依存を高めていった。
そして石油やLNG(液化天然ガス)などのエネルギーの海外依存度は85%以上と非常に高い。この食料とエネルギーの海外依存度の高さは、危機時に脆いニッポンに直結。経済安全保障上からも、食料とエネルギーの自給率向上は必須の課題だ。
「農業を成長産業に、そして先端産業にしていくと、僕も経団連の農業活性化委員会を担当してきましたが、その頃から自給率が40%弱程度ではいけないと。平時のまだ何もないときはいいんですけど、こういう国際秩序が不安定になると、食料、エネルギーの自給率を高めておくことが不可欠になってくる」
競争力のある農業をどう創り出すかは戦後日本が一貫して抱える課題。
「日本の農業は生産性が低いとされてきたが、日本はむしろ自給国家になれる基本条件が揃っている国。温暖で水も豊富。ということは植物の成長が早い。地球温暖化、脱炭素の動きの中で、毎年起きている光合成の範囲内で新しい農業文明を成り立たせるというビジョンが今こそ必要」(三菱総研理事長・小宮山宏氏)という声もある。
自給率向上へ、十倉氏も「カロリーベースでも生産額ベースでも、競争力のある農業を育
て、海外に輸出するぐらいの意気込みでやらなければいけない。そういう自給向上戦略をも
っと進めていきたい」と農業の基本方向を語る。
原発をどう考えるか? 日本の脆さは、ことにエネルギー面で顕著だ。日本にあるエネルギーは水力、太陽光、風力などの再生エネルギーと原子力の2つある。これらの国産エネルギーが、日本が必要とする全エネルギーの中で占める比率は約12%しかない。
原子力をどう考えるか?
「経団連は、もとから原子力発電は必要だと言っているし、特にこの4月、グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて、という提言書にもまとめています。その中でも原子力にかなりページ数を割いて言っています」
日本のエネルギー確保という観点から、原子力は必要─ということだが、十倉氏はその際の留意点を次のように強調。
「何といっても、エネルギーは少し長い目で見れば、S+3E(スリーイー)の原則です」
Sはセーフティ(Safety、安全性)。3つのEは、エコノミック・エフィシェンシー(Economic Efficiency、経済効率)、エンバイロメント(Environment、環境適合性)、そしてエナジー・セキュリティ(Energy Security、エネルギーの安定供給)である。
「これは、その時々によって、大震災が起こったときは安全性が強く言われるし、地球温暖化の論議が高まればエコロジー(エンバイロメント)が言われる。今回みたいに、ロシアのウクライナ侵攻が起きると、エナジー・セキュリティが強く意識されます」
この『S+3E』の原則はその時々で濃淡を伴って、それぞれ認識されるということだが、経済に不可欠のエネルギー確保は何といっても中長期視点が不可欠だということ。
経済産業省は7月末、高い安全性を保つとされる〝次世代原子炉〟の『革新軽水炉』開発の工程表を有識者会議に示した。実用化までに時間はかかるが、こうした努力が進む。
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