診療録の公開に賛同した医師
─ 結果としてデジタルトランスフォーメーションのはしりになったと言えますね。
栗谷 そうですね。かなり早い方だったのではないかなと思います。照会機能でもメールに病院内のどこが空いているか分かるような仕組みを組み込み、また、VPNというセキュリティも混ぜ込んで実装していきました。
今から見ると玩具みたいな機能でしたが、それが当たった。事前にデジタルで手続きを済ませておけば、受付することなく来院いただいた段階で手続きが全て済むようになりました。
─ HCNの前身であるヘルスケアネットは11年から始動していますが、これが全国でも先駆けた取り組みになったと。
栗谷 HCNを始めた頃は地域の医療情報共有システムが、あちこちで出始めた頃でした。ただ当時は総合交付金など国の予算がいろいろついていました。その予算のお陰で全国でも数多くのシステムが立ち上がった。ただ、それが今でも機能しているかというと、ほとんどは機能していないのではないでしょうか。しかし、HCNのシステムはそんなに高いお金を投じることなく構築することができました。
─ 何が違ったのですか。
栗谷 医療機関同士の信頼があったからこそだと思います。これがなければできません。医師の診療録など、ともかく全部を開示しようと決めたからです。普通であれば、診療録を公開することに反対する医師が多いものです。しかし、我々は開示検討委員会というものも一切立ち上げませんでした。医局会議に行って開示を求める理由を説明しただけです。
最初に話を聞いた医師たちは皆キョトンとしていましたが、使い続けていくうちにメリットの方が大きいことが分かってきたのです。例えば、紹介状のやりとりにしても、わざわざ挨拶文やら余計なことは書かずに済みます。どういう治療をしたかだけを簡潔に示せばいい。その上で、あとは詳細を診てくださいと伝えれば済むのです。
─ 全員での情報共有が大事だと。
栗谷 そうです。他に効果的だったなと思うのは、介護施設や訪問看護ステーションなども公開する対象としたことです。そうすることによって、カンファレンスの時間が半分になりました。今まで病院側の医師が患者さんやその家族に、どういうことを伝えたかは、患者さんやその家族から聞くしかありませんでした。
しかし、患者さんやその家族から情報を聞き出そうとしても、本人たちが正確に分かっていることなどありません。介護施設や訪問看護ステーションの職員が医師に連絡するしかなかったのです。これは彼らにとってはもの凄いストレスでした。
ところがHCNではカンファレンスをして医師の報告を皆で聞き、そのカルテなどの情報も共有できるようになりました。介護施設や訪問看護ステーションの職員が医師にわざわざ聞き出す必要がなくなったのです。