自衛隊幹部は「前に立つ」人達
─ 國分さん自身、9年間教える側として防大生と接してきたわけですが、彼らの成長や変化をどう見ていましたか。
國分 彼ら以上に、私の方が変わったのではないかと思います。また、学生達が変わったかどうか、成果が出るのは将来です。つまり、我々は「種」を蒔いているわけですから。
彼らは将官になるなど、必ずしも偉くなることを目的にしていません。なぜなら、100人の学生のうち、将官になるのは10人以下です。人事評価は同期が一番信頼できるということで、同期評価が重要なようです。「あいつになら任せられる」という感じで、誰が出世したというのはあまり関係ないのです。
─ 問われるのは、文字通り人間力だと。
國分 そうですね。人間力ですし、人を引き付ける魅力でしょうね。自衛隊幹部は「上に立つ」のではなく「前に立つ」のです。そうして部下を引き付けて、彼らが「この人になら命を預けられる」と思うかどうか。それだけです。
今、日本ではいろいろな組織で上を見るヒラメ的な現象が蔓延していますが、それだと問題が置きます。やはり一番大事なのは現場です。
ですから、校長を務める中で、むしろ私の方が教育者とは何か、リーダーとはどうあるべきかなど、いろいろなことを教えてもらいました。
特に教育の目的は何なのかということを真剣に考えましたが、最終的には人間形成なんだというということが、よくわかりました。ただ、我々がつくることはできませんから、契機を与えることが教育なのではないかと思います。それを掴み取るかどうかは学生次第です。
─ あくまでも、選ぶのは学生達だということですね。
國分 そうです。そして、あまりこちら側の思いを引きずらないことが大事だとも感じました。「こうあるべきだ」という形でやり過ぎてはいけないと。学生は個性が皆違いますから、むしろこちらが個性をさらけ出すことが大事だと考えてやってきました。少し変わった校長だと思われたかもしれません(笑)。
昔からの士官学校の校長には厳父のようなイメージがありますが、私はその個性を持っていませんから、むしろ学生と一緒に考え、溶け込むことを意識してきたんです。おかげで学生とは本当に仲良くなりました。
─ 個性をさらけ出す國分さんの姿に、防大生達も共感したのかもしれませんね。
國分 彼らの真摯な態度、純粋性に接して、こんな若者達が、世の中にいるのかと思っていました。私は彼らのような経験をしていませんから、彼らにこの部分はかなわないと思いながら一緒に過ごしていましたね。
国を背負いたいといった志を持った若者が集まってきますから、その純粋さに逆にこちらが刺激された感じがします。いい出会いがたくさんありました。