2022-12-15

国際通貨研究所理事長・渡辺博史氏が直言「今の円安は、日本の国力低下を反映している。民間企業の真価が問われている」

渡辺博史・国際通貨研究所理事長



「3本目の矢」が打たれてこなかった


 ─ その意味で為替の問題は日本が国力をいかに取り戻すかにかかってくるということですね。かつて安倍政権時代に「アベノミクス」がありましたが、「3本の矢」のうち第3の矢である成長戦略が問われると。

 渡辺 そうですね。アベノミクスが残した課題は「3本の矢」に関して2つ間違えた部分があったことです。

 まず、毛利元就の故事における3本の矢は、一緒にいることで効果を発揮するものでした。ですから矢は一緒に打つべきだったのに、1本ずつ打ってしまった。かつ、第1の金融の矢が効き過ぎて、第2の財政が少し打たれたものの、第3の成長戦略はほぼ打たれていません。

 3本の矢を順に打つということがおかしかったことに加えて、3本目が事実上打たれておらず、的まで届いていないのが現状です。

 これは政府だけでなく、民間の方にも問題があったと思います。20世紀、特に最後の20年ほどは白物家電と自動車という2つの産業が日本全体をけん引し、貿易収支の黒字のかなりの部分を占めていました。

 しかし、すでに20世紀終わりくらいから白物家電は韓国、中国、台湾に敗れる状況になり、たくさんあった総合家電メーカーも、あるところは倒産し、あるところは海外資本の傘下に入ってしまいました。

 自動車は、まだいい状況ですが、2035年にはEU(欧州連合)はハイブリッド自動車(HV)の販売も認めないという方針を示しています。その後、米国でも販売できなくなる可能性がありますから、それに代わるものとして電気自動車(EV)に行くかどうかが問われます。

 ─ トヨタ自動車などはEV、HVなど全方位で行くと言っていますね。

 渡辺 ですが、EVの世界では中国、米国が先を走っています。自動車発祥の地である米国は1980年代、90年代から欧州車にも日本車にも勝てなくなって低迷していましたが、EVでは政治的に難しい相手である中国と手を組む方向に傾いています。そしてそれを環境が後押ししているわけですが、日本はそこに乗り切れていない。

 20世紀の2本柱が21世紀の2本柱になれない中で何をやるかが、まだ見えていません。日本の人口を支えるだけの起爆剤になるようなものは出てきておらず、これをどうつくるかには、政府の取り組みもありますが、民間に頑張ってもらわなくてはなりません。

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