2022-12-15

国際通貨研究所理事長・渡辺博史氏が直言「今の円安は、日本の国力低下を反映している。民間企業の真価が問われている」

渡辺博史・国際通貨研究所理事長



IMFが示す『2つのT』


 ─ 日本のGDP(国内総生産)に占める製造業の割合が下がっていますが、今後の製造業の位置づけをどう考えますか。

 渡辺 製造業は安定的な雇用の機会を与える意味で必要な存在です。日本では第1次産業、第2次産業が減って、第3次産業、サービス業に軸足が移りつつありますが、サービスの世界が「人」相手が多いとすると、今回のコロナ禍のようなことが起きると、人が来ないとサービスができない事態に陥ります。

 サービス業は、外の変化に振られやすい面があります。対して製造業は、生産を自国内で行えば、販売に関しては、先程の人の動きに比べれば変動幅が小さい。ただ、一時の円高でアジアに工場を移してきましたから、日本国内で生産する量はかつてより減っています。

 その中でロシア、あるいは中国の動きを見ると、全ての国と同じように取引できる状況ではなくなっています。ですから米国などではフレンド・ショアリング(サプライチェーン=供給網を同盟国内に収める)という考え方が強くなっています。

 ─ まさに経済安全保障の流れが強まっていると。

 渡辺 ええ。ただ、これが極端になると、第2次世界大戦前のような「ブロック経済」(本国と植民地、同盟国で形成する閉鎖的経済体制)になってしまいます。ですから、同盟国とは重要な、あるいは高度な部分を一緒にやる、汎用的なものではいろいろな国と付き合うという形で分けていく。

 その中で、日本が先頭を走ることができるような分野をつくり、重要なもの、汎用的なものの仕分けをして広がりのあるマーケットをつくっていく力を日本企業に付けていただきたいと思います。

 過去2年、コロナの関係で開かれなかった世界銀行・IMF(国際通貨基金)の年次総会が22年10月に久しぶりに開かれました。IMFは基本的に健全財政の立場を取る機関ですが、コロナ禍で人が動けない状況下では政府がやるしかないという姿勢を示しました。

 それでも条件を出していて、それが「2つのT」でした。第1に「targeted」、どういう分野や人に実行するかという目標を定めること。第2に「temporary」、短い期間で終結させるということです。IMFの関係者は、これを言って、我々日本人の顔を見てニヤッと笑っていました。日本の苦手分野だということがわかっていたのですね。

 ─ 改めて官民が一体となって取り組むべき課題ですね。

 渡辺 そう思います。本当に困っている人を助けたり、制度をつくって自由に動ける環境をつくるのは政府の仕事ですが、政府が音頭を取って何かをするのは限界があります。そこはやはり民間に頑張ってもらわないといけません。官民が協調しながら、同時に緊張関係を保つという時代だと思います。

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