2022-12-15

国際通貨研究所理事長・渡辺博史氏が直言「今の円安は、日本の国力低下を反映している。民間企業の真価が問われている」

渡辺博史・国際通貨研究所理事長



国力の基本は「人」


 ─ 今、日本全体で「リスキリング」(学び直し)が叫ばれていますが、これは国力向上とも絡む話ですね。

 渡辺 そうですね。ただ、それ以上に今の大学までの教育も変えていく必要があります。以前、文部科学省とも議論したことがありますが、日本は理系、文系で分けて受験することになっていますがこれがおかしいと考えています。

 文系に行きたい人に理由を聞くと、多くの場合「数学が嫌いだから」という答えが多いわけです。ITが氾濫する時代に数学が苦手で生きられるかという問題はありますし、その理由を公的に認めて、数学ができなくても行ける大学があるというのは問題だと思います。

 また、大学は学部ごとに受験していますが、これからの時代に求められているのは、全く違う複数のものを一緒にする能力です。しかも今は、親や教師に学部選びを相談することが多いわけですが、30年前の知識の人に聞いても適切な答えが返ってくるわけではないのです。

 ─ 最後は自分で選ぶしかないと。

 渡辺 そうです。ですから、あまり学部を小さく分けず、大学に入学してから興味関心を持った分野を専攻していく形に変えなければいけません。私は米ブラウン大学に留学しましたが、当時から米国では一部の大学でこのような形になっていました。

 なぜ、このような教育が必要かと言えば、日本人は決められたことをやって能力を上げ、改善を進めるという形でやってきましたが、これから求められるのは全く違うもの同士をつなげて新しいものを生み出す能力です。今の日本の大学は、この能力を育む形になっていない。

 米国のIT起業家などは数学だけでなく、文化人類学や植物学など全く違う分野を学んだ上で、新しい事業を模索しています。もちろん、日本にも能力を持った起業家はいますが、もう少し幅広い学問を学べる場をつくる必要があると思います。

 ─ リベラルアーツという言葉がありますが、日本で改めて考える必要がありますね。

 渡辺 そう思います。また、社会人になってからも仕事が合わない、あるいは専門的にやっていた仕事がなくなるというケースも出てきます。昔のタイピストはなくなりましたし、今の経理の仕事も多くの部分をコンピューターが代替しています。

 その意味でリカレント教育が重要になっています。ただ、そのための教育プログラムをつくるのも大変です。コンピューターに関して言えば、そこで教えようと仕組んだものが、翌年にはもう古くなっているというくらい、移り変わりが激しいからです。

 最先端の部分は一部の優れた人材が担うとして、リカレントでどこまでの学び直しをするかといった目標をきちんと設定する必要があります。

 以前から日本は、発明はしないけれども、技術を産業化するのは得意だと言われてきました。逆に言えば「閃き」の部分がなかった。今のままでは、いつまでも二番手、三番手のままです。この「閃き」をいかに刺激するかが、これからの教育で非常に大事になってくると思います。

 ─ 個人の個性を生かす教育も必要になりますね。

 渡辺 日本は「出る杭を打つ」というような風土がありますが、ある私の先輩は「出過ぎた杭は打たれない」と言っていました(笑)。1つの枠組みにみんなを当てはめていると縮小均衡に陥ってしまいますから、出る杭を認めるような世の中にしていくことが必要だと思います。


わたなべ・ひろし
1949年6月東京都生まれ。72年東京大学法学部卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。2003年国際局長、04年財務官。07年国際金融情報センター顧問、08年一橋大学大学院商学研究科教授、同年日本政策金融公庫代表取締役副総裁、12年国際協力銀行代表取締役副総裁、13年同代表取締役総裁、16年国際通貨研究所理事長。

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